鎌倉時代の随筆「徒然草」で知られる吉田兼好ゆかりの古刹(こさつ)「正圓寺(しょうえんじ)」(大阪市阿倍野区)が心霊スポットと化している。2年前に当時の住職が逮捕され、詐欺罪などで実刑が確定。管理者不在で荒廃が進み、肝試し目的の不法侵入が絶えなくなった。地元自治会や警察が見守り活動を実施しているが、こうした「無住寺」は全国に1万7千カ所以上との指摘もあり、全国的な課題となっている。 ■「心霊廃墟」の悪名 「正体不明の霊が目撃されています」。あるオカルト情報のまとめサイトに、正圓寺はこう紹介されている。 正圓寺の公式ホームページなどによると、平安時代中期の939(天慶2)年創建。境内に残る「大聖歓喜天(だいしょうかんぎてん)」の標石の台座は吉田兼好が藁(わら)打ちに使ったとの逸話もあり、地元では「天下茶屋の聖天さん」と呼ばれ親しまれてきた。 元住職は虚偽の登記を申請したとして令和5年10月に大阪府警に逮捕され、6年10月に詐欺罪などで懲役2年6月の実刑判決を受け、確定。大阪地裁は今年6月に正圓寺の破産手続きの開始決定をした。 元住職は平成30年ごろに境内で特別養護老人ホームの建設を始めたが、資金難に陥り工事が中断。もぬけの殻の3階建てコンクリートがくすんでいく様子は、「心霊廃墟」と呼ばれる状態に拍車をかけている。 ■相次ぐ侵入事案 SNSでも一時「心霊スポット」に関する投稿が相次いだ。大半は削除済みだが、府警によると、今年5~10月中旬までに建造物侵入の疑いがある事案が計9件発生。大半は未成年で、「SNSで知り、肝試しのつもりで来た」と話しているという。 建物の出入口などにはすでにバリケードが設置されているが、根本的な解決には至っておらず、地元自治会では定期的に見回りを実施。ときには府警阿倍野署員も加わり、寺周辺を巡回している。 ■文化財盗の懸念も 地域の拠点であるはずの寺が急に心霊スポットと化すのは周辺住民の体感治安を悪化させるが、正圓寺は古刹であるだけに文化財保護の問題も生じている。 大阪市教育委員会によると、正圓寺には「正圓寺仏画群」など市指定文化財が約80点あった。現在は約50点を市が保管しているが、残りの約30点は侵入を検知した際にアラートが鳴るなどの防犯対策が施された上で、境内で保管されている。