犯罪や非行をした人々の立ち直りを支援する保護司。静岡県内で約1300人が更生保護の担い手として活動する。安全な地域社会の維持に欠かせない存在である一方、昨年5月に滋賀県大津市で保護観察対象者が担当の保護司を殺害する事件が発生し、安全面のリスクが浮き彫りになった。対象者と信頼関係を結びながら保護司の安全をいかに守り、将来的な担い手確保につなげていくか―。事件から約1年半。制度の見直しが進む中、保護司らは複雑な思いを抱えながら、更生を願って対象者と向き合う。 ■法務省 制度維持へ対策模索 「元気?仕事は順調?」浜松市内の集合住宅の一室。元中学校長の藤田裕光さん(62)=中央区=は月2回、対象者との面接に臨む。話題は主に仕事や休日の出来事。言葉や表情など気になる点はメモに書き留めておく。「積極的に話をしたい人ばかりじゃない。少しでも環境を整えてあげたい」。時間がかかっても、心を開くことが更生への第一歩と信じている。 保護司になったのは中学校の元教え子の逮捕がきっかけ。後悔の念から更生保護の道に進んだ。献身的に寄り添っても、対象者は罪を繰り返すこともある。更生保護への情熱がありながら、活動に限界を感じて保護司を離れた知人もいる。それでも「(対象者が)欠かさず面接に来て近況を話してくれるだけで、やっててよかったなと思う」とやりがいを口にする。 大津市の事件直後、仲間からは安全を懸念する声が聞かれた。対象者と住所や連絡先を共有し、自宅での面接は心理的なハードルが高い。待遇面にも見直しの余地があり、現役世代には職場の理解やサポートも必要と感じる。「保護司はなくてはならない。だからこそ変えるべきところは変えないといけない」 行政書士の加藤義一さん(71)=同区=は警察官を定年まで勤め上げ、7年以上にわたり更生保護に携わる。取調官として多くの容疑者と対峙(たいじ)してきた加藤さんでさえ、大津市の事件以降は面接時の緊張感が増した。対象者には「立ち直って幸せになってほしい」との思いで接してきた。だからこそ、同じような事件が二度と起きてはいけないと思う。ただ、課題もある。「保護司の安心感と対象者の気持ちをどのように両立させるか、難しい問題だ」と指摘する。 なり手不足を打開しようと、法務省は2023年に検討会を設置。人材確保策や待遇改善の議論を開始した。大津市の事件を受けて複数人体制の面接の活用、保護観察官の関与の強化といった安全対策にも着手。医療、社会福祉など関係機関との連携強化も図る。 静岡保護観察所の石川亜弓企画調整課長は保護司の現状について「対策を講じなければ、将来的に制度の維持さえ難しくなる可能性がある」との認識を示す。その上で「人材確保と同時に、保護司が安全に活動できるよう守る方策をさらに検討する」と強調した。