パレスチナ自治区ガザ地区の和平案に盛り込まれていた「国際安定化部隊」(ISF)を巡り、参加に消極姿勢を示すイスラム諸国が相次いでいる。ガザに部隊を派遣すれば、イスラエルに代わる「占領者」と受け止められかねず、イスラム組織ハマスやイスラエル軍との衝突に巻き込まれる恐れもあるからだ。米国は来年1月までの設立を目指しているが、不透明感も漂っている。 「ISFの明確な枠組みが見えていない。現状ではおそらく参加することはない」。ロイター通信によると、アラブ首長国連邦(UAE)の大統領顧問は10日、部隊派遣に否定的な姿勢を示した。 和平案によると、ISFは地元警察官の訓練を行うほか、ガザ境界の警備や復興に必要な物資の搬入などを支援する。ガザの「非軍事化」にも関わり、イスラエル軍はISFの展開に応じて撤退を進める。 ガザの停戦は10月10日に発効し、「第1段階」である戦闘停止と人質の引き渡しが続いているが、イスラエル軍の完全撤退やハマスの武装解除などの「第2段階」を進めるには、ISFの設立が不可欠だ。 米ニュースサイト「アクシオス」などによると、米国は4日、ISFの権限などを定めた国連安全保障理事会の決議案を起草した。ISFが少なくとも2年間、ガザの治安維持や「非国家主体」の武装解除などにあたるとの内容で、目的達成のため「あらゆる必要な措置」を取れるとしている。米国はインドネシアやUAE、エジプト、トルコなどに参加を要請しているという。 だが、参加が見込まれる国からは部隊派遣に慎重な姿勢が目立つ。ヨルダンのサファディ外相は1日、ISFには国連からの委任が必要だと述べた上で、「ガザに部隊を送ることはできない」と明言。アゼルバイジャンの政府関係者も7日、ロイター通信に対し、戦闘が完全に止まるまでは部隊を派遣しないと語った。 イスラム諸国にとって、自国部隊がイスラエル軍の攻撃やハマスとの衝突に巻き込まれれば、国内外のイスラム社会から反発を招く恐れがある。このため、安保理決議に基づく正当性や一定の安全性が確保されなければ、簡単には参加できない事情がある。 一方、トルコは派遣に前向きだが、イスラエルのネタニヤフ政権は強硬に反対している。イスラエル批判を強めるトルコがガザで影響力を増すのは容認できないからだ。 トルコの捜査当局は7日、ネタニヤフ首相らにジェノサイド(集団虐殺)容疑で逮捕状を発行した。これに対し、イスラエルのカッツ国防相はX(ツイッター)でトルコのエルドアン大統領に向け、「ばかげた逮捕状を持ってここから出て行け。ガザは双眼鏡でしか見られないだろう」と投稿。トルコによる部隊派遣を拒否する意向を改めて強調した。【カイロ金子淳】