養育中の男児(1)に暴行を加えたとして府中市の里親の男が逮捕、起訴された事件で、男は妻と共に研修や男児との交流を重ねた後、養育を始めて3カ月余りで虐待に及んだとされる。関係者によると、育児ストレスが引き金とみられる。専門家は「準備段階と実際の子育ては違う。SOSを出せずにいたのでは」とし、里親を孤立させない重層的な支援体制の重要性を指摘する。 「何かの間違いではないか」。9月12日、男児に対する虐待を疑う通告が寄せられた際、夫婦2人を知る県東部こども家庭センター(福山市)の職員は驚きを隠せなかったという。1カ月ほど前に家庭訪問し、育児への悩みや虐待の兆候も見られなかったからだ。 2人は、無職の男(31)=暴行罪で起訴=と会社員の妻(30)=暴行容疑で処分保留。県こども家庭課によると、2人は昨年4月、センターに里親認定申請書を提出。里親研修を受けた後、同9月に県子ども・子育て審議会支援部会から「適格」と判断された。部会では収入や家族構成、家の間取りなどを確認し、子育てに対する考え方も踏まえて審査したという。 2人は同10月に里親登録され、将来的な養子縁組を前提に今年4月から男児との交流を始めた。施設や医療機関、自宅での計7回の交流を経て、5月中旬から3度、男児を自宅に1、2泊させて養育を体験。同月末、里親委託がスタートした。 センターなどは6~8月に計5回、家庭訪問で養育状況を確認していたが、異変には気付かなかった。子どもの虐待問題に詳しい県立広島大の松宮透高(ゆきたか)教授(社会福祉学)は「十分な助走期間があっても実際に育児を始めると必ずストレスはある。職員に『子育ては順調』と示そうとするあまり、相談できなかった可能性もある」と話す。 事件を教訓に、県は再発防止策として地域で見守る仕組みづくりを検討するという。松宮教授は「里親委託を始める前に各地の里親会へ一定期間参加させたり、里子同士の交流プログラムを用意したりして、悩みを共有できるつながりを持てるようにしてほしい」と提案している。