豪ビーチ銃撃・シリアでの米軍死亡の背後はどちらも“あの組織”…IS、復活か

オーストラリアのボンダイ・ビーチで発生した銃撃事件を契機に、イスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)」の再浮上に対する懸念が高まっている。領土を失い勢力が弱体化していたISが、拠点であるシリアの政局混乱に乗じて勢力を再建し、その後、世界各地で個人化されたテロを実行するようになったのではないかという不安だ。 アンソニー・アルバニージー豪首相は16日(現地時間)、現地公共放送ABCとのインタビューで今回の事件について「容疑者はISのイデオロギーによって急進化したとみられる」と述べた。ただし「(IS組織との)共謀の証拠はない」とし、当局がIS指導部との組織的な連携を確認したわけではないと説明した。 死亡者16人、負傷者40人余りが出た今回の事件の容疑者はサジド・アクラム(50)とナビード・アクラム(24)で、14日にボンダイ・ビーチで開かれていたユダヤ教の祭り「ハヌカ」の会場で銃を乱射した。父親のサジドは警察に射殺され、息子のナビードは逮捕された。捜査当局は事件後、彼らの車両からISの旗2枚を発見した。 また13日には、シリア中部パルミラでIS対テロ作戦の支援業務に当たっていた米国軍兵士2人と民間人通訳1人が、武装した襲撃者1人の攻撃を受けて死亡する事件も発生した。この襲撃者は、シリア治安部隊に加わって約2カ月の新兵で、シリア当局と米国当局は、攻撃犯がISと関連している疑いのある人物だと明らかにした。 ◇IS、「ローンウルフ(一匹狼)」を足掛かりに再び台頭か 2003年米国によるイラク侵攻後に生じた混乱に乗じて勢力を拡大してきたISは、2014年にイラクとシリアの一部地域を武力で制圧し、神政一致国家である「カリフ国」の樹立を宣言した。しかし、2019年3月に米国主導の国際同盟軍(CJTF-OIR)の攻撃でカリフ国が崩壊すると、ISはシリアやイラクの砂漠地帯などに散り散りになった。 だが、国際社会では「消滅した勢力」と見なされていたISが、再び勢力拡大を図る動きを見せているとの懸念が提起されている。特に、昨年12月にシリアでアサド政権崩壊によって生じた地域内の権力空白は、IS勢力が再び台頭する条件を与えているとの分析が出ている。シリアでは、イスラム武装組織ハイアト・タハリール・アル・シャーム(HTS)が主導する暫定政府が発足したものの、実質的な統治力はクルド人民兵などが地域ごとに分担している状況だ。 特に、シリア北東部でIS戦闘員とその家族4万人以上を拘束しているクルド人勢力は、最近、トルコ(テュルキエ)が支援する反軍勢力からの軍事的圧力により統制力が弱まっている。こうした状況は、IS残党収容施設からの脱走や再組織化につながる恐れがある。実際、一部地域ではすでにIS地下組織の活動や小規模な武装攻撃の兆候が確認されているという。 ISの代名詞ともいえる「ローンウルフ」(自生的テロリスト)による攻撃への懸念も大きい。ISはかつて組織員を募集して指令を下していたが、近年は世界各地の現地住民がIS思想に感化され、「ローンウルフ」となって自発的にテロを実行するケースが増えている。ソーシャルメディア(SNS)などを通じて極端な理念を拡散し、現地住民を取り込んでテロに駆り立てるのは、ISの典型的手法だ。 米国外交問題評議会(CFR)の対テロ担当シニアフェロー、ブルース・ホフマン氏は、ワシントン・ポスト(WP)に対し、「ISはもう領土を支配してはいないが、数千人の構成員を抱えるテロ組織という本来のDNAに戻った」とし、「我々の認識や視野から遠ざかったからといって、ISが自らの目標から後退したわけではない」と指摘した。

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