メディア界の危機的状況はこれからどうなるのか 青木 理[ジャーナリスト]

――この10月に『闇の奥』(河出書房新社)という新著を上梓しましたね。いろいろな媒体に書いたルポなどをまとめた本ですが、「結びに」で編集者が言った言葉を紹介してました。本が売れないこの時代に「硬派なルポやコラムを編み直し刊行を重ねられている書き手は存外に少ないんですよ」と。これは本当にその通りですよね。コラムなどを何年分かまとめて1冊の本にするというのは、以前は一般的なやり方でしたが、今は本当にニュースや情報の消費速度が速いですから。 青木 ええ、新著『闇の奥』にまとめたのは、この5年弱くらいの間に雑誌や新聞等に寄せた原稿です。今にはじまった話ではありませんが、確かに最近はニュースの回転が早いというか、それに伴って忘却の速度も速くなっている。僕自身、あらためて収録原稿をまとめつつ、忘れかけていた記憶が喚起されたり、忘れてはいけないことに思いを致したり、そういう作業の必要性を痛感しました。 ひと昔前なら月刊誌もたくさんあって、せめて月単位のスパンで物事を考えるのは普通でしたが、月刊誌も続々と姿を消し、ニュースと称する情報がネット上などで刹那的に消費されているような状況ですからね。ですから今回の新著は一人でも多くの方に読んでほしいし、忘れてはいけないことの記憶を喚起し、問題意識を共有してほしいと願っています。 ―― 『闇の奥』にはメディア批判もかなり含まれていますね。近年はネットメディアがマスメディアを批判することが多いけれど、でも青木さんは活字にテレビ、そしてネットもやってるオールラウンドの印象が強い。最近はかなりユーチューブにも出てますよね。 青木 いや、レギュラーで出ているのは津田大介くんの『ポリタスTV』だけですよ。むしろ僕はネットとはかなり疎遠で、SNSの類は一切やっていません。ユーチューブ番組も、依頼があれば望月衣塑子さんのところに出ているぐらい。だから原稿を書く本業が主で、それ以外ではテレビとラジオ。ラジオは大好きなので別ですが、テレビはそろそろお役御免かなぁと。 ――テレビはやめようと思ってるんですか? 青木 僕が決めることじゃありませんが、僕も来年は還暦ですから本業に集中して(笑)、書かなくてはならないルポのテーマもいくつか抱えていますからね。 このうち年明けにはまず、書き下ろしの長編ルポを刊行します。もう10年近く取材した思い入れのあるテーマで、東日本大震災と福島第一原発の事故後、飯舘村で自死に追い込まれた102歳の古老とその家族の運命をめぐる物語です。 これは僕個人の感慨になってしまいますが、あの3・11はフリーランスになって初めての大災害でもありました。直後から被災地入りして取材したものの、災害の規模も広さもケタ違いで、果たして一介の物書きに何が書けるのか煩悶し、しかし何事かはきちんと記録に刻みたいと七転八倒し、被災地に通ううちに102歳の古老の自死を知りました。 その事実自体に僕は驚愕しましたし、自死の真相を取材するうちに戦前、戦中を含む、この国の「国策」や時代の歪みも浮かびあがってきたんです。ですから僕にとってみると、この国の近現代史までを俯瞰しつつ3・11について初めてまとまったものを書く、大切な区切りの作品になったと思っています。

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