「国のトップは騒ぎばかり 地域を着実に回す人の方がまともに見える理由」ブレイディみかこ

英国在住の作家・コラムニストのブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 * * * バビロン。最近、その言葉が妙に頭に浮かぶのは、スラングとして使われる場合に「抑圧政治」や「過剰な物質主義」を意味するからか。いや、オムツをしたトランプの戯画をよく目にするせいだ。バビロンのスペルは、BABYで始まるのだ。 騒動の連発は戦略であり、オムツ姿で暴れて世界を不確実性の淵に沈めている間に、粛々と自らや周囲のテクノ領主たちの富を拡大し、権力基盤を強固にして、MAGA勢の分裂を沈静化させるつもりだというのはヤニス・ヴァルファキスの説だ。 だが「粛々」は別の場所にもある。大文字(トランプのSNS投稿に特徴的な表記法だ)の政治が狂気の様相を呈する一方で、小文字の政治は正気を保っている。戦争犯罪で逮捕されそうで署名式に出られないメンバーもいる「平和評議会」が発足した一方で、ニューヨークでは16歳から25歳の若者たちを対象とした「ユース・ヘルス・クリニック」の設立が発表されていた。メンタルヘルスや性と生殖に関する健康を含む医療分野で、若者たちが支援を受けやすくするのが目的だ。マムダニ市長や病院関係者、市議会議員の記者会見の動画を見ていると、大文字の政治家たちとは顔つきがまるで違うのに驚いた。人々のリアルな日常の生活や健康を守る人たちの顔はもっと朗らかで、しかし真剣だった。同じ政治でも、まるでパラレルワールドみたいだ。ポピュリストと呼ばれるマムダニだが、1月に就任以来、橋の修繕、過失ある家主への取り締まり強化、2歳児の無料保育提供の発表など、スピード感ある仕事ぶりで公約を着々と形にしている。 またもや米市民がICE(移民税関捜査局)職員に射殺された米国では、それに敢然と抗議するミネアポリス市長やカリフォルニア州知事も存在感を増している。英国でも、史上最低の支持率のスターマー首相ではなく、マンチェスターのバーナム市長を首相に望む声が強い。似た流れだ。国のトップは空騒ぎばかりで人々の生活を変えられないから、地域を着実に回している首長たちがまともに見えている。左右や上下ではなく、「サバイバル」が人々の最大の関心事になってきたからだろう。 ※AERA 2026年2月9日号

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