【解説】 アンドリュー元王子の捜査、「エプスティーン資料」は「氷山の一角」か

ダニエル・サンドフォード英国特派員 イギリス王室のアンドリュー・マウントバッテン=ウィンザー元王子(66)が19日午前8時ごろ、逮捕された。しかしその容疑は、元王子による性被害を訴えていたアメリカ人女性ヴァージニア・ジュフレー氏とはまったく関係のないものだった。 テムズ・ヴァレー警察の声明によると、元王子は公務中の不正行為の疑いで逮捕された。 元王子が逮捕されるきっかけとなったのは、今年1月に米司法省が追加公開した、性犯罪で有罪とされた米富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)に関する膨大な資料だった。この資料から、元王子が2010年と2011年に、イギリスの貿易特使として公式業務で得た機密情報をエプスティーン元被告に意図的に共有していた可能性が明らかになった。しかし、捜査はこれだけにとどまらないだろう。 公開資料には、アンドリュー元王子とエプスティーン元被告との間で交わされたとされる電子メールが含まれており、これがテムズ・ヴァレー警察の捜査につながった。 特に注目されたのは、2010年11月に送信されたメールだった。 そこには、元王子がシンガポールや香港、ヴェトナムへの訪問に関する報告や、投資機会に関する機密情報を、エプスティーン元被告へ伝えていた様子が記されていた。 イギリス政府の公式規定では、貿易特使は訪問先に関する機密性の高い商業・政治情報について守秘義務を負うと定められている。 メールによると、アンドリュー王子(当時)は2010年10月7日、シンガポール、ヴェトナム、中国・深圳、香港への自身の公式訪問予定をエプスティーン元被告へ送っていた。訪問には、元被告とビジネス上の関わりがある人々が同行していた。 アンドリュー王子(当時)は同年11月30日、王子の特別補佐官だったアミト・パテル氏から各国歴訪の報告書を受け取ると、その約5分後に、その報告書をエプスティーン元被告へ転送したとみられる。 公開文書では、さらに別のメールの内容も明らかになった。 2010年のクリスマスイブにアンドリュー元王子はエプスティーン元被告に対し、アフガニスタンのヘルマンド州復興での投資機会に関する機密説明をメールで送信していたとみられる。このプロジェクトは当時、イギリス軍が監督し、イギリス政府が資金面でも支援していた。 さらに、2011年2月9日付の別のメールでは、元王子がその1週間前に訪問したプライベート・エクイティー企業に投資してはどうかと、エプスティーン元被告に促していたとみられる。 貿易特使の職務規定は、「貿易特使は公務員ではない」と定める一方、「しかし、貿易特使の役割には、受領した情報に関する守秘義務が伴う。これには、市場や訪問内容に関する機密性の高い商業・政治情報が含まれる」とも定めている。 「この守秘義務は、任期終了後も継続する。さらに、1911年および1989年の公式機密法が適用される」ともある。 こうしたメールの内容が、テムズ・ヴァレー警察による本格的な捜査のきっかけとなったようだ。しかし捜査官は、私たちが目にしているメールの内容だけに頼って捜査を進めるわけではないはずだ。 立件するために、英政府や王室に対し、当時何が起きていたかの把握につながる電子メールの提出を求めるだろう。実際、英王室は9日、「個別具体的な指摘についてはマウントバッテン=ウィンザー氏が対応するが、もしもテムズ・ヴァレー警察が私たちに接触してくるなら、当然のことながら私たちは協力する用意がある」と表明している。 捜査官はエプスティーン元被告の関連資料300万点を独自に精査し、米連邦捜査局(FBI)や米司法省に対して、未編集の資料のコピーを提供するよう要請するだろう。こうした要請については、英国家犯罪庁(NCA)が警察を支援している。 これまでのところ、私たちが見ているのは「氷山の一角」にすぎない。しかし捜査官はすでに、水面下に潜むもっと多くのことを確認しているかもしれない。 警察が、公開資料に含まれる数件の電子メールだけに基づいて元王子を逮捕したとは考えにくい。 現時点では、アンドリュー元王子は逮捕されたが起訴はされていない。元王子はこれまで、エプスティーン元被告との関係における一切の不正行為を否定している。1月に追加公開された資料に関するBBCの問い合わせには、元王子は回答していない。 今回の逮捕は、元王子による性被害を訴えていたアメリカ人女性ジュフレー氏とは無関係だ。 ジュフレー氏は、17歳だった2001年にエプスティーン元被告から元王子に人身売買され、元王子との性行為を複数回、強制されたと主張。2022年に元王子と民事和解したが、和解には責任の認定や謝罪は含まれていなかった。 ジュフレー氏は昨年4月に自死している。 アンドリュー元王子は逮捕後、警察の拘束下に置かれたが、19日午後7時ごろに釈放された。ホワイトカラー犯罪に関連する逮捕では、家宅捜索や初期聴取のため数時間拘束されるのが一般的だ。釈放後も、改めて聴取が行われる可能性がある。 捜査官は大きな決断を下すことになる。結論が出るまで数週間かかるかもしれない。 王冠の帽章をつけた警官は今後、検察庁(CPS)の法律専門家たちと協議し、国王の弟を起訴するに足る証拠があるか判断することになる。 裁判に持ち込むことになれば、「R対マウントバッテン=ウィンザー」事件、つまり、「国王対国王の弟」という構図になる。 (英語記事 Epstein files could be just tip of the iceberg for Andrew investigation)

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