真北正親。この男は善なのか、悪なのか。日曜劇場『リブート』(TBS系)において、主人公・儀堂歩(鈴木亮平)の動向を追う監察官・真北正親(伊藤英明)の存在感が増している。 真北は、警察内部の不正を正し、規律を維持する警視庁警務部の監察官だ。その職責だけを見れば、組織の膿を出す“正義”の象徴と言える存在である。裏組織とのつながりが噂される儀堂の前にたびたび姿を現しては、軽妙な口調で話しかける。しかし、その瞳の奥には、儀堂のことを値踏みするような冷徹な光が宿っている。 監察官として儀堂をマークすること自体は、職務として何ら不自然ではない。だが、執拗に、かつ神出鬼没に儀堂の前に現れる様子から、単に不祥事を暴こうとする以上の「何か」を感じさせる。正義ゆえの行動なのか、それとも別の目的を抱いているのか。真北のその挙動は、視聴者に「正義の味方」という言葉だけでは片付けられない、奇妙な違和感を抱かせている。 この「どちらとも取れる」不気味さを成立させている背景には、“伊藤英明”という俳優のキャスティングの妙がある。伊藤といえば『海猿』シリーズ(フジテレビ系)で演じた熱き救助隊員・仙崎大輔役があまりにも有名だ。命懸けで他者を救い出す姿は、真っ直ぐで爽やかな「正義の味方」の象徴となった。しかし、そのイメージは、2012年の映画『悪の教典』での怪演によって鮮やかに塗り替えられる。彼が演じたのは、生徒から絶大な人気を誇りながら、裏では殺人を繰り返すサイコパス教師。爽やかな笑顔を浮かべたまま引き金を引く姿は、観客に衝撃を与えた。この「究極の善」から「底なしの悪」への振れ幅こそが、役者・伊藤英明の持つポテンシャルを決定づけたといえる。 自身のInstagramでは、クールな印象を覆すようなコミカルな動画をアップして話題となったことも記憶に新しい。パブリックイメージを固定させず、常に更新し続けるそのスタンスは、視聴者にとって「今の伊藤英明が次に何を仕掛けてくるのか」を容易には推測させないミステリアスな魅力を生んでいる。 加えて、本作においては主演の鈴木亮平と背格好の似た伊藤を配役した点も見逃せない。筋骨逞しく、どこか重なる二人のシルエットは、視聴者の脳裏に「どちらかがどちらかにリブートしているのでは?」という、本作の根幹を揺るがす疑念を常につきまとわせるのだ。 「圧倒的なヒーロー」と「底知れぬ狂気」。その両極を体現してきた伊藤自身のキャリアが、真北というキャラクターが放つ「得体の知れない二面性」にそのまま重なっている。視聴者は真北の笑顔を見るたび、それが慈愛の笑みなのか、あるいは破滅への誘いなのかを判断できない。 公務に見えていたその行動が、明確な“異質さ”を帯び始めたのが第4話だ。儀堂に対し、真北が放った「今のうちに美味しいものでも食べておいてください」という一言。一見すれば、逮捕目前の相手への皮肉とも取れるが、視聴者はここで戦慄することになる。このセリフは、マネーロンダリング組織を率いる合六亘(北村有起哉)が、裏切り者へ制裁を下す直前に放つ言葉と同じものだったからだ。 これを踏まえると、儀堂が放った「俺以外にも警察内部に合六の犬がいる」という言葉が、一気に真実味を帯びてくる。本来、交わるはずのない二人の言葉が重なった事実は、真北が合六ら裏組織と何らかの接点を持っていることを予感させる。 視聴者が真北の正体に疑念を抱く理由は、言葉の一致だけではない。真北が自ら口にした「妻のひき逃げ事故」という過去だ。この「事故」というキーワードは、早瀬陸(鈴木亮平/松山ケンイチ)の妻・早瀬夏海(山口紗弥加)が、高校時代に母を亡くした事故とも奇妙にリンクする。バラバラに見えた点と点は、一つの「事故」を介して、真北の執念の源流へと繋がり始めている。 一方で、真北の言動の裏にある「孤高の正義」の可能性にも触れておきたい。根拠となるのは、真北の背後に浮かび上がる、政界という巨大な影の存在だ。合六が議員会館で足を踏み入れた「真北弥一」なる人物の部屋。この「真北」という姓の一致は、政界と真北正親の関連を示唆している。もし、真北が、政界に食い込む合六の背後の闇(それは家族の不祥事に繋がるかもしれないが)を暴くために行動しているのだとしたら。その場合、これまでの言動は、巨大な獲物を仕留めるための捜査として意味を帯びてくる。 第5話で描かれた真北による儀堂逮捕。それは、正義の執行か、あるいは裏社会への加担か。もしくは、儀堂をあえて「容疑者」として管理下に置き、巨悪の手から遠ざける彼なりの「保護」という線も捨てきれない。真北の行動は、単なる不正暴きの枠を超え、物語の前提そのものを覆す展開を見せる可能性を秘めている。不敵に笑う真北の真意が明かされるとき、『リブート』は真の姿を現すことになるだろう。