ずっと解かれなければいいのに…。「東野圭吾」が最後まで育てた名探偵・加賀恭一郎の「最後の謎」(Bookレビュー)

その探偵は人の心を覗きこむ。 『あなたが誰かを殺した』の主人公・加賀恭一郎刑事は〈探偵ガリレオ〉こと湯川学と人気を二分する東野圭吾の名探偵だ。初登場は、東野のデビュー第二作『卒業』である。 その別荘地では、複数の家族がバーベキューパーティに興じる慣わしがあった。ある8月、そこに刃物を持った乱入者があり、犠牲者が出た。逮捕された犯人の供述は不可解なもので、事件の全貌は曖昧なままだった。生き残った者たちは集結し、どういう経緯で殺されたかを検証しようとする。長期休暇中の加賀はオブザーバーとしてそこに参加するのである。 ミステリーの中には、関係者を集めて探偵が謎解きをする場面がクライマックスになるものがある。物語のほぼ最初から最後までそれが続く小説だ。群像劇風に関係者たちが紹介されていく序盤では、隠し事をしている者がいることも明かされる。中には「あなたが誰かを殺した」と印字された謎の手紙を受け取った者もいたのだ。検証会に臨んだ彼らの秘密を、加賀は見抜いていく。 推理の過程は綴られるが犯人の名が明かされない『どちらかが彼女を殺した』のような実験的な試みを、東野は加賀のシリーズで行ってきた。一方で『新参者』のように、市井の人を訪ねた加賀が、彼らと話すことでそこにある謎を解いていくという情感溢れる作品もある。 加賀恭一郎という主人公は、東野にとって人間を裏も表も余すこともなく描くために必要な目だったのだと思う。だからこそデビュー第二作から晩年まで、大事にこの主人公を育て続けた。『あなたが誰かを殺した』は人間心理の奇妙さを徹底して描いた物語で、どういう終わり方をするかが最後までわからない。謎は解かれるからこそおもしろいのだが、ずっと解かれなければいいのに、と願いながら本作を読んだ。東野圭吾がずっといてくれたらよかったのに。 [レビュアー]杉江松恋(書評家) 1968年東京都生まれ。文芸評論家、書評家、作家。慶應義塾大学文学部卒。ミステリーなどの書評を中心に、映画のノベライズ、翻訳ミステリー大賞シンジケートの管理人など、精力的に活動している。著書に海外古典ミステリーの新しい読み方を記した書評エッセイ『路地裏の迷宮踏査』『読み出したら止まらない! 海外ミステリーマストリード100』など。2016年には落語協会真打にインタビューした『桃月庵白酒と落語十三夜』を上梓。エッセイ『ある日うっかりPTA』など著書多数。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社

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