マーク・ワディントン、レイチェル・ラザロ、ジョニー・ハンフリーズ 昨年7月末から8月にかけてイギリス各地で暴動が相次ぐきっかけになった、イングランド北西部サウスポートのダンス教室襲撃事件の公判で、アクセル・ルダクバナ被告(18)は20日、幼い女の子3人を刃物で殺害したことを認めた。 リヴァプール刑事法院で始まった公判で、ルダクバナ被告はアリス・ダシルヴァ・アギアールさん(9)、ビービー・キングさん(6)、エルシー・ドット・スタンコムさん(7)を殺害した罪に問われている。 検察は、被告が襲撃を「綿密に計画」し、「後悔する様子を見せていない」と記者団に話していたが、被告は罪状認否で周囲の意表をついて、殺人、殺人未遂、テロ関連犯罪のすべてについて有罪を認めた。 陪審員が宣誓して審理に入る前に、公選弁護人は被告にあらためて罪状を伝えるよう裁判長に求めた。この後に被告は、殺人3件、殺人未遂10件、テロ関連の罪状2件についていずれも有罪を認めた。 罪状はひとつずつ告げられ、顔を医療用マスクで覆っていたルダクバナ被告はそのたび、静かに「有罪」と述べた。 被害者の遺族は出廷していなかった。グース裁判長は、本格的な審理は21日に始まるものと「誰もが思っていた」と説明し、遺族に謝罪した。 裁判長は、自分の言葉が被告に伝わっていることを確認した上で、量刑言い渡しは23日になる予定で、終身刑は「避けがたい」と伝えた。 被告は21歳になっていないため、保護観察下の仮釈放を認めない終身刑を言い渡すことはできない。 事件の約3週間前に行われた総選挙でサウスポート選出の下院議員になったばかりだったパトリック・ハーリー議員(労働党)は、実質審理が始まる前に被告が有罪を認めたことは「意外で衝撃だった」と話した。 議員は、長い裁判を傍聴し続けるという「精神的な拷問」に被害者の家族が絶えなくて済むのは、歓迎できると述べたうえで、「今日は祝うべき日ではなく、私たちが被害者をしっかり記憶し続けるための日だ」と話した。 ■なぜ守れなかったか……首相は真相究明を約束 ランカシャー西部バンクス村で暮らしていた被告は、毒物リシンを生成した罪と、イスラム武装組織アルカイダの訓練マニュアル所持という反テロ法違反の罪状についても認めた。 事件捜査を担当したマージーサイド警察は、武装組織アルカイダのマニュアルを押収したものの、サウスポートでの刺殺事件はテロ事件とは認定されなかったと説明した。 政府の消息筋はBBCに対して、ルダクバナ被告は昨年夏の事件に先駆け、暴力に固執していたことから警察の訪問を受けていたのに加え、政府のテロ防止対策で何度か照会されていたと明らかにした。 イヴェット・クーパー内相は、サウスポートの事件について事実関係の公開調査委員会を開くと発表している。 キア・スターマー首相は、「卑劣で病的なサウスポートの人殺し」が有罪になることは歓迎するものの、「これは国にとってトラウマの瞬間だ」とも述べた。 首相はさらに、「幼い少女たちを守るという究極的な責務について、国家がどのように失敗したのか、深刻な疑問に答える必要がある」とも話した。 「イギリスは当然、答えを求める。そのため私たちは徹底的に真相を究明する」とも首相は述べた。 ■被告について偽情報拡散し暴動に 事件は昨年7月29日、米人気歌手テイラー・スウィフトさんの曲をテーマにした夏休みのイベントが開かれていたサウスポートのダンス教室で起きた。 当時17歳だったルダクバナ被告は、殺害した3人のほかに子供8人と、指導係だったヨガ教師のリアン・ルーカスさん、早い時点で現場に到着したビジネスマンのジョン・ヘイズさんを刺した。 サウスポートで当日開かれた住民の集会は静かなものだったが、ルダクバナ被告の身元について偽情報がオンラインで拡散し、暴動につながった。 イギリス生まれの被告について、小型ボートでイギリスに入り難民資格を申請していたという偽情報が広く拡散し、不法移民に抗議する集団による暴動がイギリス各地で広がった。 一連の暴動で約1200人が逮捕され、400人以上が起訴された。数十人が有罪となり実刑判決を受けた。 事件後にアリス・ダシルヴァ・アギアールさんの家族は、アリスさんが「完璧な理想の子供」で、「自信と思いやりにあふれ」、「私たちの世界を動かす」存在だったとしのんだ。 ビービー・キングさんの両親は娘が、「喜びと光と愛情でいっぱい」の「愛らしくて優しい、快活な女の子」だったと話した。 エルシー・ドット・スタンコムさんの家族は、エルシーさんを「とても素晴らしい」「素敵な女の子」と呼んでいた。 事件直後から現場近くにはたくさんの花束が置かれ、チャールズ国王をはじめとする大勢が全国各地から追悼のために訪れた。 ■退学になった学校にも行こうと ルダクバナ被告は2006年、ルワンダ出身の両親のもとでイギリス・カーディフで生まれた。2013年に、サウスポートに近いバンクス村に引っ越した。 13歳のころから暴力的な行動が目立つようになり、13歳だった2019年10月にはマージーサイドの中学を退学処分になった。ホッケースティックでほかの生徒を襲い、教師に制止されるなどしたためという。 サウスポートでの事件の1週間前には、その学校に戻ろうとしたが、父親がタクシー運転手に息子を乗せないよう説得したため、学校に戻ることはなかった。 サウスポートの事件発生時に着ていたのと同じパーカーと手術用マスクを、この時も身に着けていたという。 20日の公判後、マージーサイドとチェシャー地区のアースラ・ドイル副主任検事は記者団に、「言語道断」の事件だったと話した。 「学校が夏休みに入ったばかりで、ただ気ままに楽しく過ごすはずの日だった。子供たちはダンス・ワークショップで遊んで、仲良しのブレスレットを作っていた。そこでアクセル・ルダクバナが、綿密に計画した襲撃を実行したせいで、楽しい場所が真っ暗な恐怖の場に一変してしまった」と検事は言い、「この若者が、死と暴力に病的で持続的な関心を抱いていたのは明らかだ。後悔の様子をまったくみせていない」と話した。 (英語記事 Southport attacker admits murdering three girls)