自宅で仕事中の本誌記者の妻に突然、警察官をかたる男から高圧的な電話がかかってきたのは昨年末の平日午前中のことだった。 偽警察官:「富山県警です。◯◯さん(妻の名前)ですか」 妻:「はい、そうですが……」 偽警察官:「あなたが、重大事件に関与している疑いが浮上している。今からスグに出頭しないと大変な状況になります」 妻:「今スグですか。ちょっと忙しいので、その内容を書面で送ってもらえませんか」 偽警察官:「ショメンってなんですか」 偽警察官からの電話の呆れた顛末は、ルポとして後ほど詳しく紹介したいーー。 ◆〈犯罪組織グループに使われている〉 警察官をかたる詐欺事件が多発している。 警視庁暴力団対策課は2月25日、詐欺などの疑いで神奈川県大磯町の無職・宮代祥平被告(詐欺罪などで起訴)を再逮捕した。宮代被告が逮捕されるのは今回で11度目。詐欺の電話をかける「かけ子」や指示役として、犯行を繰り返していたという。 「今回の逮捕容疑の事件は、’23年10月から11月にかけて起きました。宮代被告は警視庁深川署の警察官を装い、カンボジアから沖縄県在住の男性(当時75)に詐欺の電話をかけたそうです。 警視庁が公開した音声データによると、男性の銀行口座が〈組織犯罪グループに使われている〉と脅迫。調査のためカネを用意する必要があるとし、指定する口座に3232万円を送金させていたとされます。公開された電話データには、警視庁本部勤務と称する男など複数の人間が登場していました」(全国紙社会部記者) これまでに警察は、宮代被告を含む詐欺グループのメンバー24人を逮捕している。グループがだまし取ったとされるカネは約1億6000万円。警察庁によると、警察官になりすますなどのオレオレ詐欺の被害総額は’24年の1年間で約453億円にのぼる。前年の3.4倍に増加しているのだ。 元神奈川県警の刑事で、犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が解説する。 「加害者の多くは、カンボジアなどの海外に拠点を置き犯行に及んでいます。日本の警察に逮捕されるリスクを避けるためでしょう。彼らの犯行手口は、警察官や弁護士などの役割が決まっている劇場型の詐欺です。複数の人間を登場させ、被害者に『自分たちは本物の警察官だ』と信じこませようとしているんですよ。 しかし捜査の知識が乏しいのでしょう。やり方はとても拙い。そもそも、警察が電話でカネを要求することなどありえません。警察官をかたる人間から突然連絡が入り『怪しい』と感じたら、『折り返しますので電話番号と担当者の名前と部署を教えてください』『録音させてください』などと伝えいったん通話を切りましょう。彼らのペースに合わせずに対応することが大切です」 ◆「え、え〜と……」 冒頭の記者の妻と偽警察官のやり取りに戻ろう。 妻:「書面が難しければ、大切なことなので録音します。もう一度、最初からお願いします」 偽警察官:「ろ、録音ですか。え、え~と……(しどろもどろに)」 妻:「再度、お名前を教えてください」 すると、電話は唐突にブチッと切れたという。 「最初は『スグ出頭しろ』と言い方が威圧的で、とても恐かったです。ただ、アルバイトがメモを読みあげているようなタドタドしい印象も受けました。こちらがいろいろと質問すると、焦った雰囲気が伝わってきた。電話番号は、海外からなのか見たこともない数字です。いきなり警察から電話がかかってきて『犯罪に関与している疑いがある』と言われたら、特に高齢の方などはパニックになってもおかしくないと感じました」(記者の妻) 繰り返しになるが、警察官が突然電話でカネを要求することなどありえない。怪しい電話には一人で対応しようとせず、要求に応じてもいけない。いったん切って家族など周囲に相談し、場合によっては実際に警察へ状況を報告することも大切だろう。