大晦日の夜、顔が分からなくなるほど殴られ死亡した女性がいる。 履いていたズボンが膝辺りまで下がった状態で自宅前の路上に倒れているのを、通行人が発見した。 逮捕されたのは、直前まで一緒に酒を飲んでいた警察官。女性の、実の兄だ。 品行方正、地域の治安を35年にわたり守り続けてきた男は、過去にも酒を飲んで家族にけがを負わせていた。 ■「覚えていませんが、私がやったことだと思います」 「小柄だな」というのが最初の印象だった。 今年2月、福岡地裁小倉支部の法廷に入ってきた福岡県警の元警部補廣瀬守隆被告(58)。 起訴状などによると、廣瀬被告はおととし12月31日、北九州市門司区の実家で妹の山本美智恵さん(当時55)の顔などを複数回殴って死亡させた傷害致死の罪に問われている。 縁の厚いメガネに、白髪交じりの短髪、上下紺色のジャージ姿。初公判の罪状認否で、廣瀬被告はよく響く大きな声で答えた。 廣瀬守隆被告(58)「覚えていませんが、私がやったことだと思います」 検察の冒頭陳述などによると、廣瀬被告は大学を卒業後に警察官となり、およそ35年わたり福岡県警で職務にあたってきた。 身長160センチ、体重は65キロ。法廷で横につきそう刑務官が大柄なこともあり、細身で小柄な印象が際立った。 小学2年生から始めた柔道は5段の腕前で、指導者的な立場だったという。 福岡県警によると、逮捕されるまで廣瀬被告の勤務態度が問題になったことはなかった。 真面目にコツコツと地域の治安を守ってきた警察官が、なぜ実の妹を顔が分からなくなるまで殴り死なせた罪に問われることになったのか。 ■大晦日 気のおけない家族や知人と楽しいはずの飲み会が・・・ 事件が起きたのは2023年12月31日、大晦日の夜だった。 (以下、検察の冒頭陳述や裁判での証言などによる) この日、廣瀬被告は田川警察署糸田交番で24時間勤務を午前9時に終え、北九州市門司区にある実家に向かった。 新型コロナの影響もあり、3年ぶりの年末年始の帰省だった。 実家に着いた広瀬被告は、昼過ぎに妹の美智恵さんたち家族と寿司店に向かう。 寿司店を出たあとは知人も加わり、焼き鳥店、スナックとはしごし、飲食は午後0時40分ごろから午後9時すぎまで続いた。 徒歩で帰宅中、広瀬被告は知人に「もう一軒行こう」などと何度も誘ったが、妹の美智恵さんが「にいちゃん、きょうはもうダメよ」と言って止めた。 午後9時半ごろ 広瀬被告と妹は、実家に到着し知人と別れた。 実家は4階建てのビルになっていて、1階にシャッターの出入り口があり、1階から4階まで内階段でつながっている。 広瀬被告の寝室は2階にあり、妹の美智恵さん一家が過ごす部屋は3階にある。 2人は階段を上がり2階の玄関前まできたが、広瀬被告が玄関のドアの縁をつかんで中に入ろうとしない。 自分の部屋に戻るように言う美智恵さんと2階の玄関前で押し問答になり、腹を立てた広瀬被告が美智恵さんの顔面などを複数回殴り、その後1階の屋外に運び出した。 午後9時55分後ごろ 通行人が路上にうつぶせに倒れている美智恵さんを発見し110番通報した。 発見時、美智恵さんはズボンが膝下まで、下着も太もものあたりまで下がった状態だった。