札幌・すすきののホテルで男性が殺害され、首が持ち出された事件の裁判員裁判。娘の犯行を手伝った罪に問われた父親に懲役1年4カ月の執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。なぜこのような判断が下されたのか、徹底解説です。 《2023年7月》 ■廣瀬美羽記者「現場は歓楽街にあるこちらのホテルです。2階の一室で男性が倒れているのが発見されました」 おととし7月、全国有数の歓楽街・すすきののホテルで当時62歳の男性が殺害され「頭部」が持ち去られたという前代未聞の事件。逮捕・起訴されたのは札幌市厚別区に住む、親子3人でした。男性殺害の実行犯とされる田村瑠奈被告。問われているのは「殺人」、頭部を持ち去った「死体領得」、そのまま自宅に保管した「死体遺棄」、その頭部を更に傷つけた「死体損壊」の4つの罪です。父親の修被告は4つの罪それぞれに手を貸した「ほう助」の罪に問われ、母親の浩子被告は「死体遺棄」と「死体損壊」のほう助の罪に問われています。 ■須藤真之介記者「こちらのホテルで当時事件が発生しました。中に入ってみたいと思います。入口を入ってすぐエントランスがあり天井には防犯カメラがあります」 これはHTBが入手した現場ホテルの防犯カメラの映像。7月1日の午後11時ごろ、瑠奈被告と被害男性が一緒にホテルに入りエレベーターに乗っていく様子が映っていました。それからおよそ3時間後の翌2日午前2時ごろ、瑠奈被告はバッグのようなものを乗せたスーツケースを押して1人でホテルを出ていきました。頭部のない男性遺体が見つかったのはこの日の午後。長時間、チェックアウトしないことを不審に思ったホテルの従業員が鍵を開けて部屋に入ると、浴室で倒れている男性を発見しました。 ■前田愛奈記者「ホテルから持ち去られた男性の頭部は、家宅捜索でこちらの家から見つかりました」 ホテルで遺体が見つかった日からおよそ3週間後。田村親子の自宅で、男性の頭部が見つかりました。男性を殺害し、頭部を自宅に遺棄した罪に問われている娘の犯行を手助けしたとして起訴されている修被告。起訴状などによりますと、修被告は事件前、男性の殺害計画を知りながらのこぎりやキャリーケースなどを購入して、娘の瑠奈被告に提供。ナイフやのこぎりを所持した瑠奈被告を自宅からホテル付近まで送迎し、男性の殺害を手助けしたなどとされています。 《2025年1月 初公判では…》 事件からおよそ1年半が経ち、1月14日に開かれた初公判。修被告は「違うと思う点がいくつかあります」と述べて、起訴内容を否認し、無罪を主張しました。裁判の争点は大きく2つ。「修被告が瑠奈被告の殺人計画を事前に知っていたかどうか」、そして「修被告の行為が、瑠奈被告の行為を直接的にも、精神的にも手助けをしていたかどうか」です。 《3月12日 判決の日》 ■依田英将アナウンサー「午前11時過ぎ、札幌地裁前です。傍聴を希望する多くの人がすでに集まっています。注目度の高さがうかがえます」 札幌地裁には49の一般傍聴席を求め、およそ6倍の291人が列を作りました。 ■札幌市民60代「お父さん(修被告)に無罪判決が出るのか有罪判決が出るのか、どのように裁判長が判決を出すのか聞いてみたい」 ■恵庭市民50代「どうして、あのような事件になって娘さんのことを大事に思っているんだと分かるんですけど、どんな判決がおりるのか気になって来てみました」 ■札幌地裁・渡邉史朗裁判長「主文、被告人を懲役1年4カ月に処する4年間その刑の執行を猶予する」「瑠奈にとって実の親であり、瑠奈の犯行を阻止できる唯一の立場にあったことから、瑠奈の犯意を心理的に促進した程度も決して小さくなかった」と、実行犯である娘の犯行を手助けしたとする検察の主張を一部認めました。 午後2時から始まった判決公判。修被告は微動だにせず判決内容を聞いていました。自らの席に戻ったあとも一切裁判長から視線を外すことなく中身を聞いていました。 裁判所は死体遺棄と死体損壊のほう助の罪については「精神的・心理的に支えるものであった」などとして認定。一方、殺人と死体領得のほう助の罪については認めませんでした。 ■札幌地裁・渡邉史朗裁判長「瑠奈が殺人まで犯そうとしていると被告人が推知していたとはいえず、殺害後に死体の損壊や遺棄等に及ぼうとしているとまで思い至ったと到底言えない」 《傍聴した元検事は…》 東京地検の元検事中村浩士弁護士がきょうの裁判を傍聴した。今後行われる浩子被告の判決に与える影響については ■シティ総合法律事務所中村浩士弁護士「浩子被告の裁判でも、今回の修被告(の裁判)で認定された事実関係、これは大前提もものとして同様の判断がされていくと思う」「修被告は死体遺棄のほう助と認定されたのと同様、浩子被告も自宅に頭部があると知った以降も自宅での頭部の隠匿行為、これについてはほう助罪が認定される可能性が高いと思う」 《争点と量刑について》 ■伊藤榮祐記者 争点は『修被告は瑠奈被告の犯行をいつ知ったのか』です。2日午前2時ごろ、修被告はホテルから瑠奈被告を車に乗せて帰宅しますが、その後、瑠奈被告から「首を拾った」と言われます。裁判所は、修被告は瑠奈被告の犯行をこの時点で知ったと認定し、それ以前の「殺人」と「死体領得」のほう助については認めませんでした。そして犯行を知った以降の「死体遺棄」と「死体損壊」のほう助について有罪であると認めたということになります。 量刑については、犯行を止められる唯一の存在だったが止めなかった・LINEのトーク履歴を消すなど証拠隠滅をはかっている・一方で今後、瑠奈被告と関わらなかぎり再犯はないので実刑までとは言えず、裁判所は執行猶予を付けるのが妥当と判断した。判決を受けて、控訴するかについて検察側は「上級庁と協議の上、適切に対応したい」とコメントしています。また弁護側は「これから修被告と話し合って決めていく」としています。