ハメネイ体制に忍び寄る「2つの死角」とは?──追い詰められるイラン指導部の苦悩

イランの指導部は50年近く、アメリカを中東から追い出し、イスラエルを壊滅させることを目指してきた。 その目的を達成するために、中東各地に自国の息のかかった武装勢力のネットワーク「抵抗の枢軸」を築いてきた。 しかし、この10年ほど、イランが国内外で置かれている状況は厳しい。最高指導者のアリ・ハメネイ師は現体制の運命を左右しかねない決断を迫られている。 2017~19年にかけて、イラン全土で失業率と物価の高騰、そして政府の腐敗に抗議するデモの嵐が吹き荒れた。 22年には、1979年の革命により現体制が発足して以来最大規模の反体制デモが行われた。きっかけは、22歳の女性がヒジャブ(頭部を覆うスカーフ)を「不適切に」着用していたとして逮捕され、その後死亡したことだった。 23年10月には、パレスチナ自治区ガザにおける親イラン武装勢力ハマスがイスラエルを攻撃。それを受けたイスラエルの軍事作戦により、ハマス、レバノンの武装勢力ヒズボラ、イラクの武装勢力などの「抵抗の枢軸」は大幅に弱体化した。昨年12月には、シリアのアサド政権も崩壊した。 イスラエルは、空爆によりイランへの直接攻撃にも踏み切った。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とアメリカのドナルド・トランプ大統領は、イランが核開発を停止しなければ、さらに攻撃するという脅しを強めている。 昨年5月、保守派のイブラヒム・ライシ大統領の事故死後、驚くべきことに改革派のマスード・ペゼシュキアンが後任になり、事態はさらに複雑になった。 だがこれまでのところ、ペゼシュキアンとハメネイは核交渉の意思を示す一方でイスラエルを脅し、米国の「強制」を拒否している。 今、ハメネイは現体制の存続に関わる2つのジレンマに直面している。 第1に、反体制派に厳しい姿勢で臨めば国民の反発がいっそう強まるだろう。だが締め付けを弱めれば、体制を支えてきた保守派の支持を失う。 第2に、核開発を進めれば、イスラエルやアメリカから攻撃される可能性が高まるが、核開発を停止すれば軍部の離反を招く。核を手放せば、最後の「抑止力」を失うことにもなる。 ハメネイがどんな決断を下すにせよ、イスラムの聖典『コーラン』の一節のような状況が待っているのかもしれない。「辺り一面から死が迫り来る……しかも、これらの前に、手厳しい懲罰がある」

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