「葬り去っていいのか」佐野海舟を復帰させた指揮官の覚悟…逡巡する思いも「道を与えたい」

日本サッカー協会(JFA)は5月23日、北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選のオーストラリア戦(6月5日/パーススタジアム)とインドネシア戦(同10日/市立吹田サッカースタジアム)に臨む日本代表メンバー27人を発表した。ドイツ1部マインツに所属するMF佐野海舟が、昨年1〜2月のアジアカップ以来となる代表復帰を果たした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎) メンバー発表会見で山本昌邦ナショナルダイレクター(ND)は今回、佐野海舟を招集するに至った経緯を説明した。「1つ目が相手の方に対して謝罪し、話し合いをしたことを確認しております。2つ目が、本人が深く反省していること、そして3つ目に不起訴処分という判断が検察によってなされており、刑事事件としては罪に問われず終了していること。この観点で選出を致しました」と語った。 佐野は昨年7月中旬に不同意性交の容疑で逮捕された。同7月下旬に釈放され、同8月上旬に不起訴処分となった。JFAの担当者は「細かい事案の中身については守秘義務の問題があるのでお話ができない」とした上で、「相手の方と話し合いが済んだことを確認している」と説明。このタイミングで招集に至った理由は「総合的な判断」としている。 今回の招集には森保監督の意向も少なからずあった。「私自身も招集する、しないをずっと考えてきましたし、協会の方々とも色んな話をしながら今日に至りましたが、このシリーズでの(復帰を)決めさせていただいた」と思いを明かした。 今年2月に欧州に視察に行った際には本人と面談するなど、復帰の道を模索してきた。「私自身もコンタクトを取りましたし、深く反省していることを感じました。その上で彼がドイツでプレーさせていただいている中で、真摯に競技に向き合って、社会に貢献するという強い意志を持ってプレーしていることもあり、我々としてもまたチームに帰って社会に貢献する、日本代表の一員として戦ってもいいのではないかと判断をさせてもらいまいした」と話した。 実際に佐野はプレー面での成長もそうだが、ドイツで社会貢献活動を行っている。今年2月には、所属事務所「UDN SPORTS」を通じて能登半島地震に係る災害義援金として100万円を寄付。また、2月下旬にはドイツで子供たちに向けたサッカースクールを開催した。4月には本人の発案で、マインツのチームメートと一緒に現地の病院を訪問。金額は非公表だが、寄付も行った。「今後も自分のできる社会貢献活動などを継続させていただき、日々努力していきたいと思います」と意向を示している。 森保監督も過去の事実が消えるわけではないことは百も承知している。それでも今回招集に踏み切ったのは、W杯出場がすでに決まったタイミングであることに加え、この1年を通じて佐野海舟という1人の人間の成長があったから。「そのまま社会から葬り去るのか、サッカー界から葬り去るのかということに関しては、再チャレンジする道を与えることの方がいいのではないかということで判断させていただきました」と強い言葉で強調した。 指揮官は常日頃から「日本代表の活動を通じて、日本の方々に、日常の励ましを送りたい」と口にしてきた。国民から厳しい目に晒されることを覚悟で、今回佐野の復帰を決めた。日本代表を応援するサッカーファミリーのためにも、今後のプレーで、行動で、代表選手としてふさわしい姿を示すことが求められる。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加