イスラエルとの最近の軍事衝突をめぐり、イラン当局が、イスラエルの諜報機関との関わりが疑われる人物を相次いで逮捕・処刑している。 イラン当局は、イランの保安機関にイスラエルの諜報員がかつてないほど浸透していたと主張している。 それらの人物らからイスラエルに提供された情報が、この紛争におけるイラン軍高官らの殺害に寄与したと、イラン当局は考えている。イスラエルの13日の攻撃では、イラン革命防衛隊(IRGC)のホセイン・サラミ総司令官や、複数の科学者らが殺害された。イランはこの攻撃を、イスラエルの諜報機関モサドによるイラン国内での工作活動の結果だとみている。 こうした殺害の規模と精度に直面したイラン当局は、国家安全保障を理由に、外国の情報機関との関係が疑われる人物を標的とした対応を強化している。 一方で、イラン当局の動きは、反対派の声を封じ込め、国民に対する支配を強化する手段でもあると、多くの人が懸念している。 ■12日間で3人、停戦後に3人を処刑 イスラエルとの軍事的対立は12日間続いた。イラン当局はその間に、イスラエルのためにスパイ活動をした罪で3人を処刑。停戦2日目の25日には、同様の罪でさらに3人を処刑した。 当局はその後、イラン各地で数百人をスパイ容疑で逮捕したと発表。国営テレビは、イスラエルの諜報機関との協力関係を自白しているとする複数の拘束者の映像を放送した。 複数の人権団体や活動家は、イランは長年にわたり、自白の強要や不当な裁判を行ってきたとして、最近のこうした動きに懸念を表明している。今後、さらに処刑が行われる可能性も懸念されている。 イラン情報省は、米中央情報局(CIA)やイスラエルのモサド、イギリス対外情報部(MI6)といった「西側およびイスラエルの諜報ネットワーク」との「容赦なき戦い」を展開していると主張している。 イランのIRGC系のファルス通信によると、13日にイスラエルがイランへの攻撃を開始した直後から、「イスラエルのスパイ網がイラン国内で活発化」しているという。停戦までの12日間で、イランの諜報機関と治安当局が「(イスラエルのスパイ網に)関連する700人以上を逮捕」したと、ファルス通信は伝えている。 イラン市民はBBCペルシャ語に対し、イラン情報省から、イスラエル関連のソーシャルメディア・ページに自分の電話番号が掲載されていると警告するテキストメッセージを受け取ったと語った。市民は、こうしたページから離脱しなければ起訴される可能性があると伝えられたという。 ■ペルシャ語報道に圧力 イラン政府はまた、BBCペルシャ語や、英ロンドンを拠点とするイラン・インターナショナル、ManotoTVなど、海外メディアのペルシャ語報道を担うジャーナリストへの圧力を強めている。 イラン・インターナショナルによると、同局のテレビ司会者1人の母親、父親、きょうだいをIRGCが拘束した。イスラエルとの紛争を報道したとして、この女性司会者に辞職を迫るためだった。保安当局の指示を受けた父親から司会者に電話があり、辞職を促され、応じなければ深刻な結果につながると警告されたという。 イランとイスラエルの軍事対立以降、BBCペルシャ語のジャーナリストとその家族に対する脅威はますます深刻になっている。最近影響を受けたという複数のジャーナリストによると、家族にイランの治安当局が連絡し、戦時下では家族を「人質」として扱うことが正当化されると伝えた。さらに、ジャーナリストを「モハレブ」(神に敵対する者)と呼んだという。これは、イラン法では死刑が適用される罪だ。 ManotoTVも、同様の事例を報告している。従業員の家族が脅迫を受けたり、同局との一切のつながりを断つよう要求されたりしたという。一部従業員の家族らは、「神への敵対」やスパイ活動といった罪に問われると脅迫されたとされる。いずれも死刑が科される可能性がある。 アナリストたちはイランのこうした措置について、反対派の意見を抑圧し、イラン国外へ逃れたメディア関係者に脅威を与えるための、広範な戦略の一環とみている。 ■過去の反政府デモ関係者も標的か 治安当局はまた、数十人の活動家や作家、アーティストを拘束している。その多くは具体的な罪状で起訴されていない。「女性、命、自由」というスローガンを掲げた、2022年の反政府デモで殺害された人の家族を標的とした逮捕も行われていると報告されている。 イラン当局によるこれらの措置は、現在の活動家だけでなく、過去の反政府運動に関わった人々にも及ぶ、広範な取り締まりが展開されていることを示唆している。 イスラエルとの戦いの最中、イラン政府はインターネットへのアクセスを厳しく制限した。停戦が始まっても、完全なアクセスは回復していない。危機的な状況下、とりわけ政府に対する全国的な抗議活動中にインターネットを遮断するのは、イランの常套(じょうとう)手段だ。加えて、インスタグラムやテレグラム、X、ユーチューブといったソーシャルネットワークや、BBCペルシャ語などのニュースサイトも、イランでは長らくブロックされている。 仮想プライベートネットワーク(VPN)を使用しない限り、イラン国内でこれらにはアクセスできない。 人権擁護活動家や政治評論家たちは、今回の動きを、1980年代のイラン・イラク戦争期における政治弾圧と重ね合わせている。 とりわけ1988年に、すでに服役中だった政治犯数千人が、いわゆる「死刑委員会」による短期間かつ秘密裏の裁判にかけられて処刑されたことを、人権団体は例に挙げている。当時、大半の犠牲者は無記名の集団埋葬地に埋められた。 (英語記事 Iran carries out wave of arrests and executions in wake of Israel conflict)