冤罪(えんざい)を生んだ不当な警察の取り調べを指弾した判決である。 東近江市の湖東記念病院で2003年に死亡した患者への殺人罪で服役した後、再審無罪が確定した元看護助手西山美香さん(45)が、滋賀県と国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、大津地裁は虚偽の自白誘導など県警の違法性を認め、県に約3100万円の支払いを命じた。検察の違法性は認めず、国への請求は棄却した。 判決では、取り調べを担当した刑事が「虚偽自白を誘導した」とし、誘導を否定してきた県警の主張を一蹴した。 患者が「たん詰まり」で死亡した可能性を示す捜査報告書を、県警が検察に送致しなかった点について、適切な判決が受けられなくなったとも言及。県警の証拠隠しとの批判は免れない。 県警は、これまで捜査方法は適正だったとし、形式的な謝罪にとどまっていた。判決を重く受け止め、不誠実な対応を反省し、西山さんに直接謝罪をすべきだ。冤罪を生み出した要因の検証にも取り組まねばならない。 一方、警察を適切に指揮すべき検察の落ち度を不問にした点には疑問が残る。西山さんは控訴する方針という。 西山さんは軽度の知的障害があり、相手に迎合しやすい「供述弱者」とされる。訴訟で原告側は、供述弱者の特性や担当刑事への恋愛感情を利用し、うその自白に導かれたと主張していた。 この点について判決は素通りした。供述弱者が冤罪被害に巻き込まれた例はほかにもある。特性を持つ人たちに対し、司法関係者の配慮や理解が求められる中、判断を示すべきではなかったか。 問題の根底には、否認すれば身体拘束が長引く「人質司法」の下、長期にわたる厳しい取り調べや供述の偏重、筋書きに沿って証拠を合わす強引さなど、かねて指摘されてきた捜査手法があることを忘れてはならない。弁護人の立会いを認めるなどの抜本改革が不可欠である。 西山さんは24歳で逮捕され、37歳まで12年服役した。再審無罪となり、違法捜査を認めぬ国と県を提訴しさらに5年を要している。 40年以上を死刑確定者として過ごした袴田巌さんも昨年、再審で無罪が確定するなど、審理の長期化を招く制度の欠陥があらわになっている。見直しのための改正法案は先の国会で審議入りしなかった。冤罪被害者を生み出さないため、政治は対応を急ぐべきだ。