福井市で昭和61年、中学3年の女子生徒=当時(15)=が殺害された事件を巡り、裁判をやり直す再審の判決公判が18日、名古屋高裁金沢支部で開かれ、増田啓祐裁判長は「噓の供述に基づいて警察が誘導などの不当な働きかけを行い、証言を形成した疑いがある」と指摘した。殺人罪で懲役7年が確定し服役した前川彰司さん(60)が事件に関与したとの証言はいずれも信用できないと判断し、前川さんに無罪を言い渡した。 前川さんは逮捕から一貫して無実を訴え、平成2年の1審福井地裁で無罪判決を受けた。しかし、7年に控訴審で逆転有罪となり、その後確定。再審公判はこの控訴審を再開する形式で開かれ、同支部は1審判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。 近年は静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(89)ら、再審無罪が相次いでいる。現行の再審制度に証拠開示のルールがないといった点が問題となっており、今回の判決は制度改正の議論に影響を与えそうだ。 事件を巡っては、直接的な物証がなく、暴力団組員(当時)を含む複数の知人が「事件直後に血の付いた前川さんを見た」などとした証言で有罪が確定。証言の信用性が争われてきた。 だが、前川さんが令和4年10月に申し立てた第2次再審請求審で、検察側が287点の「新証拠」を開示。この中で、複数の知人が共通して「事件当日に見た」と証言したテレビ番組のシーンが、実は別の日に放送されていた上、検察側が公判途中で放送日の誤認に気づいていたことが判明した。 昨年10月の同支部の再審開始決定は、誤認に気づいた後も虚偽の立証を続けた検察側の姿勢を厳しく非難。警察側にも知人らを誘導し、虚偽供述をさせた疑いが強いと指摘した。 一方、今年3月の再審初公判で検察側は、有罪判決に誤りはないと訴え、警察が供述誘導したとの指摘は「荒唐無稽」と反論していた。 ■福井中3殺害事件 昭和61年3月19日夜、福井市の市営団地で、住人の中学3年の女子生徒=当時(15)=が殺害された。福井県警は約1年後に前川彰司さんを逮捕。福井地裁は平成2年、無罪判決を言い渡したが、7年の名古屋高裁金沢支部判決は逆転有罪とし、心神耗弱を認め懲役7年とした。最高裁も支持して確定。前川さんは満期出所後の16年、第1次再審請求をした。第2次再審請求で高裁金沢支部は昨年10月、再審開始を決定。検察も異議を申し立てず、確定した。