『相棒』『特捜9』『刑事7人』など名作刑事ドラマを数多く生み出してきたテレビ朝日の“水曜夜9時枠”に、10年ぶりの新作シリーズとして登場したのが『大追跡〜警視庁SSBC強行犯係〜』(以下、大追跡)だ。大森南朋、相葉雅紀、松下奈緒のトリプル主演が話題となる中、警視庁の「SSBC(捜査支援分析センター)」に焦点を当てたことでも注目を集めている。 SSBCは、2009年に警視庁に設置された実在の組織。同じく2009年に設置された未解決事件を扱う実在の警視庁の組織「特命捜査対策室」が何本もドラマ化や小説化されているのに対し、SSBCは裏方で地味な存在感とでも思われていたのか、今回の『大追跡』がSSBCに初めてスポットライトをあてたドラマ作品だ。ただし、作中に登場する「SSBC強行犯係」は架空のユニットである。ここでフィクションとしてアクセントを付ける狙いなのかもしれない。 2022年から2023年にかけてセンセーショナルな話題となった「ルフィ広域強盗事件」でSNSの痕跡から警察が犯人を探り出したり、テレビ朝日の名物ドキュメンタリー番組『列島警察捜査網 THE追跡』などで防犯カメラ映像を解析して犯人を見つけたりしている報道等を見て、近年の捜査技術の進化を感じている人も少なくないだろう。これらを支えてきたのがSSBCだ。第1話で中途入庁の新人キャリア官僚・名波(相葉雅紀)が「現代における犯罪捜査の要ですね」と評するとおり、SSBCは最先端の科学技術を駆使して捜査を支援する現代捜査のキーマン的存在だといってよいだろう。 ■防犯カメラ解析、デジタルデータ解析のリアルさ 現実のSSBCは、防犯カメラの画像解析や、スマートフォンなどのデジタルデバイス・電子機器の解析を行う「分析捜査支援」と、犯罪の手口などから犯人像を分析するプロファイリングを主とする「情報捜査支援」をしているという。 『大追跡』で描かれている防犯カメラ映像解析や電子機器の復元、プロファイリングといった科学捜査手法は、一見するとSFのように見えるが、これまでのエピソードを見る限り、多くはすでに現実の捜査現場で活用されているか、運用または研究が進められている技術の延長線上にあるようだ。今後、どのような技術が登場してくるか、ストーリーとは別の楽しみがあるのがうれしい。そこで、ここまでに登場した主要な科学捜査の手法と、リアルさを見ていきたい。 まず、分析捜査支援から。作中の説明によるとSSBCは都内6カ所にある200台の防犯カメラをメインに使用しているようだ。第1話「殺意は映る」でも防犯カメラ映像による犯人追跡が効果的に使われていた。防犯カメラの画像解析は『列島警察捜査網 THE追跡』やニュース報道では、もはや“おなじみ”の捜査手法といってよい。現場から防犯カメラに写った画像を持ち帰り、SSBCが運用する「DAIS(捜査支援用画像分析システム)」で画像を鮮明にするなどの分析を行う(※1)。例えば、カメラに写ったひき逃げ車両の不鮮明なナンバープレートを判読することもできる。 2012年から2013年にかけて漫画『黒子のバスケ』の作者・藤巻忠俊や関係各所が標的にされ、大きな騒動となった「黒子のバスケ脅迫事件」では、防犯カメラ映像の解析が犯人逮捕の決定打となった。犯人が各地のコンビニ等から脅迫状を送付する様子を複数の防犯カメラ映像で追跡。最終的に犯人の自宅まで特定したといわれる捜査手法は、警察の高い技術力を広く知らしめることとなった(※2)。現在、SSBCでは、AI技術を活用した顔認証システムを導入するなどして、画像処理技術をより進歩させ、従来では判別不可能だった映像からも有力な情報を抽出できるようになったと報じられている。 だが、防犯カメラも万能ではない。住宅街や自然の多い市町村など、防犯カメラの設置台数が少ない地域では真価を発揮できないこともある。こういった弱点はいずれ『大追跡』でも描かれるに違いない。このようなピンチをどうクリアするのか、「SSBC強行犯係」のお手並み拝見、といったところである。 第1話で印象だったのは、海に沈んだスマホからのデータ復旧だ。現在は、デジタルデバイスに記録された情報の回収と分析を行う「デジタルフォレンジック」技術により、物理的に損傷したデバイスからもデータ抽出が可能となっている。これは事件捜査ではないが、2022年の「知床遊覧船沈没事故」では海底120メートルに沈んだスマホの復旧に成功。長期間、海に沈んでいたにも関わらず、内部データの一部を復元できたことが大きな話題となった(※3)。技術の急速な進歩を示す象徴的な事例といえる。 消えたSNSのメッセージの解読も可能だ。全国を恐怖に陥れた闇バイトが絡む広域強盗事件「ルフィ広域強盗事件」では、犯行グループが秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を使用していた。当初は解析困難とされたが、SSBCは実行役らから押収したスマホを解析し、やりとりの復元に成功。指示役の逮捕につなげている(※4)。現在は使用者が削除したと思っているデータでも適切な材料が揃えば復元可能だ。SSBCではこうした「削除済み」データの復旧技術も保有しているとされ、重要事件の証拠収集に活用されている。 第1話終盤でカギとなったのが「耳による人物特定」ではないだろうか。報道ベースで見ると、海外では利用されていることがわかる。耳の形状は指紋と同様、個人を特定できる生体情報として、防犯カメラ映像からの人物特定に活用されているようだ。日本でも広島県警の論文が確認できる(※5)。また、技術の進歩により目元だけからでも高精度な個人識別が可能というが(※6)、SSBCでは複数の生体認証技術を組み合わせることで、より確実な人物特定を行っているとされる。今のところ、公表事例は意外に多くない。しかし今後、捜査一課課長の八重樫(遠藤憲一)が、高度な科学捜査が犯人逮捕につながったと記者会見で発表する日はくるのだろうか。