米国のドナルド・トランプ大統領が中南米の麻薬カルテル掃討のために軍を投入するよう指示したとの報道に、中南米が過去の悪夢を思い出して強い警戒感を示している。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が10日(現地時間)、報じた。 NYTは、トランプ氏が8日、テロ組織に指定された中南米の特定の麻薬カルテルに対して、軍事力を行使するよう国防総省に極秘裏に指示したと伝えた。これは他国に米軍を直接投入する可能性があるいう意味に解釈された。 これに対して中南米諸国は即座に反発し、懸念の声を上げた。メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、報道が出た直後、自国内における米軍の活動を拒否し、メキシコはあらゆる種類の「侵略」を排除すると述べた。 コロンビア上院議員のイバン・セペダ氏は「このような公式はうんざりするほど失敗してきたことが確認されている」と語った。グアテマラの学者フェルナンド・ゴンサレス・デイビソン氏も、この種の介入は「甚大な被害をもたらす」とし、米国は軍事介入でしばしば政権交代を画策してきたと指摘した。 こうした反発は、米国が政治的目的のために、長年、中南米に米軍を投入してきた歴史に起因する。米国第5代大統領ジェームズ・モンローが1823年に発表した「モンロー主義」は、戦争・占領・クーデター介入・親米政権樹立などを含む米国の軍事介入の「教義」として機能した。モンローは、アメリカ大陸における米国の覇権を主張し、中南米で米軍を運用できるとした。 ジェームズ・ポーク大統領は1846年、メキシコとの間で米墨戦争を引き起こし、カリフォルニア・アリゾナ・コロラド・ニューメキシコなどメキシコ領だった地域を奪い、モンロー主義を掲げた。米国は1898年のスペインとの「米西戦争」でプエルトリコ・グアム・フィリピンを奪い、1903年にはコロンビアの分離主義者の反乱を支援するため軍艦を派遣した。米国の支援で新たに独立国パナマを建国した彼らは、パナマ運河地帯の支配権を米国に譲渡した。 パナマ建国を助けたセオドア・ルーズベルト大統領は、モンロー主義に基づき、米国がアメリカ大陸で露骨な不法行為の事例を発見すれば警察力を行使すべきだと主張し、その後、米国によるアメリカ大陸への介入はさらに繰り返されるようになった。 米国は「米国人の財産保護」を名目にキューバに3度派兵し、ハイチを占領して親米政権を樹立し、ドミニカ・ニカラグア・ホンジュラスを占領した。冷戦期にはグアテマラ・ブラジル・チリで民主的に選ばれた指導者を追放するクーデターに加担し、ドミニカ共和国とグレナダに地上軍を派遣した。1989年には、米国で麻薬密売の罪で起訴されたパナマの独裁者マヌエル・ノリエガを逮捕するために2万人以上の兵士をパナマに派遣した。 米国は現在、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を「麻薬密売人」として指名手配しており、マドゥロ氏逮捕に関する情報提供者には5000万ドル(約74億円)を支払うとしている。 こうした前例から、中南米に対するトランプ氏の軍投入指示は、地域全体で反米感情を引き起こすだろうとの見方が出ている。英国のシンクタンク、チャタムハウスのラテンアメリカ上級研究員のクリストファー・サバティーニ氏は「トランプ政権のこうした動きや脅しは、米国の中南米介入に対する歴史的かつ根深い大衆の不安を刺激することになるだろう」と予測した。