広島の通勤列車で痴漢被害の女性、癒えぬ心の傷告白 被害は氷山の一角か

アストラムラインが駅に滑り込み、乗降客がせわしく行き交う。昨年5月に通勤列車で痴漢の被害に遭った広島市内の女性(27)は「今も乗る時は怖い…」と声を絞った。広島県警の捜査で犯人は特定され、今年7月に罰金20万円の略式命令が出た。形式上、事件は終わったが、捜査機関や加害側の弁護士と1人で向き合った心労は思った以上に重く、心の傷は今も癒えない。 昨年5月27日朝。女性は満員のアストラムラインのドア付近に立っていた。県庁前駅(中区)に着いた時、背の高い男が降り際に右臀部(でんぶ)を触った。手をつかもうと思ったが、一瞬ためらった間にその姿は遠ざかっていった。帰宅後もあの出来事が頭から離れず、2日後、県警に被害を届け出た。 「すぐ捕まるだろう」と期待したが甘かった。当たり前に乗っていた通勤列車が怖く感じた。被害に遭った車両は避け、乗車中は防犯ブザーをいつでも鳴らせる状態で握りしめるようになった。 半ば諦めていた昨年10月、県警から「犯人を特定した」と連絡が入った。29歳の会社員の男だった。ただ逮捕はされず在宅で任意捜査を続けると伝えられた。その後、男は県迷惑防止条例違反容疑で書類送検された。 「ここからがしんどかった」。仕事の合間を縫い、検察官や男の弁護士とやりとりを重ねた。公的な被害者支援制度があるのは後に知った。検察官は「仕事のストレス解消のため痴漢を繰り返していた」と話した。身勝手な犯行動機に怒りが増し「男が普通に生活を続けているのが納得できない」と検察官に思いをぶつけたが「逮捕される方が少ない」と返された。 弁護士からは50万円で示談を打診されたが「社会的制裁を受けてほしい」と断った。今年7月、男は略式起訴され、広島簡裁は罰金20万円の略式命令を出した。起訴されるまで1年2カ月。「本当に長く感じたのに、示談金の半額以下の罰金刑。あまりにも軽過ぎませんか…」 県警は昨年、痴漢や不同意わいせつなど身体接触を伴う被害を214件把握した。今年は6月末までに98件と減少傾向にあるが、人身安全対策課は「把握できているのは氷山の一角」とみる。

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