活況「投げ銭」3000億円市場のスキャンダル ゆがんだ承認欲求で背任や殺人トラブルも

新型コロナウイルス禍でリアルライブイベントが中止となる中、ミュージシャンやアイドルが利益を得る機会でもあり、ファンとアーティストをつなぐ方法でもある「投げ銭」サービスが活況となった。令和3年に公表された民間の調査で潜在的市場規模は3千億円を超えたともされる巨大市場だが、一方で投げ銭の背景にある「相手に認められたい」という承認欲求から事件に発展するケースも後を絶たない。 ■常軌を逸した高額投げ銭 <最高にお綺麗(きれい)です>。昨秋、ライブ配信サービス「Pococha(ポコチャ)」で雑談配信をする20代の女性配信者のもとに、あるユーザーからこんなメッセージが届いた。その主は東京都世田谷区の自称不動産ブローカーの男(46)。常軌を逸した高額の投げ銭はその後も続き、男はサービス上で一躍有名人となった。 繰り返された投げ銭を通じて、男は女性配信者と「投げ銭できるからライブ配信してみて」と促したり、自身の持つブランド品を自慢したりとSNSで個別にメッセージを送り合う関係にまで発展した。女性も「配信者のランキングで1位になりたい」などと応じるようになった。 投げ銭の原資がポケットマネーであれば問題はないが、男は違った。昨年末、「不審な投げ銭をしている人物がいる」と情報提供を受けた京都府警が男の周辺を捜査したところ、第三者のクレジットカード情報を用い、投げ銭用のコインを購入していた疑いが浮上し、今年4月、電子計算機使用詐欺容疑で逮捕。男は詐欺罪などで公判中だが、押収したスマートフォンからは計約4600万円の不正購入が確認された。 ■過去には殺人事件に発展も 「ポコチャ」を運営するDeNAによると、投げ銭に必要なアイテムなどの不正購入が疑われる場合には、アカウントを停止する措置などを講じている。しかし、カードの不正利用を見抜いて完全に防ぐことは難しいといい、同社は「カード会社などと連携し、引き続き業界をあげて取り組んでいく」としている。また、過剰な課金を防ぐための上限額設定機能を設けるなどの対策も進めているという。 昨年2月、自動車大手ホンダが法人契約していたクレジットカードを投げ銭などに使用し、同社に計約2300万円の損害を与えたとして、警視庁が背任容疑で元社員の男を逮捕するなど、投げ銭が犯罪につながる事例は過去にも相次いでいる。

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