少林寺の住職「少林CEO」逮捕が物語る、中国の熾烈すぎる政権闘争

巨額の富と権力を築いた中国少林寺の住職・釈永信が、あまりにも俗物的なスキャンダルで失脚した。愛人51人、隠し子174人、資産1500億ドル──。ネット上の誇張された数ではあるが、実は中国では誰もが知る"公然の秘密"であった。 不可解なのは持ち前の剛腕と政治力で守られていた男が、なぜ今になって"潰された"のか? 背後に見えてきたのは粛清を重ねる習近平政権の暗闘だった。中国の実情に詳しい安田峰俊氏が解説する。 ■単なるナマグサ住職のスキャンダルではない 少林寺の住職、当局に捜査されて僧籍剥奪――。今年7月末、中国発のこんなニュースが世界で話題になった。 今回、捜査対象になったのは釈永信(しえいしん)という僧侶。武術「少林拳」で有名な、中国河南省にある嵩山(すうざん)少林寺の住職を長年務めた人物だ(ちなみに日本の「少林寺拳法」は、現代中国の少林拳とは別組織)。 今回、釈が捜査を受けた理由は、ネットに流れた真偽不明の情報によると、愛人51人、非嫡出子(ひちゃくしゅつしゅし)174人を持ち、資産総額は1500億ドル以上に及んだため……。 もちろん、これらの数字は「フカシすぎ」。だが、寺の資産の横領や、仏教の戒律を破って多数の女性と性的な関係を持ち私生児をもうけていたこと自体は事実のようだ。 中国では、当局の正式な捜査対象になることは(実質的に)有罪を意味する。そのため、中国仏教会は捜査が明らかになった翌日、早くも釈の僧籍抹消を発表している。 もっとも、この事件はただの「ナマグサ住職の笑えるスキャンダル」ではない。 釈は中国仏教協会の副会長で宗教界の重鎮だったほか、2018年まで全国人民代表大会の代表(国会議員に相当)を務めた政治家としての側面も持つ。彼の失脚は政治的事件なのだ。 実のところ、釈の不義不正は、とうの昔から周知の事実でもあった。15年に彼の弟子らが告発を行ない、中国社会で大きな話題になったからだ。 当時、この告発は世間を騒がせたものの、当局側が事実関係を否定。ひとまず沙汰やみになった。むしろ告発した弟子が逆にスキャンダルを食らわされたほどだ。釈の政治力の強さを示す話である。

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