殺人罪の公訴時効廃止に遺族の尽力 26年前の殺人事件、容疑者逮捕

名古屋市西区のアパートで1999年、住人の主婦、高羽奈美子さん(当時32歳)が殺害された事件で、愛知県警は31日、容疑者を逮捕したと明らかにしました。殺人事件の時効は15年でしたが、2010年に改正刑事訴訟法が成立し、公訴時効が撤廃されました。今回の事件も撤廃がなければ解決できなかった可能性がありました。時効撤廃には、犯罪被害者家族の尽力がありました。(毎日新聞2010年4月26日朝刊、年齢などは当時) ◇公訴時効、殺人罪など廃止 遺族「永久に捜査して」 殺人罪など凶悪事件の公訴時効を廃止する刑事訴訟法改正案が、27日にも衆院本会議で可決、成立する見通しだ。95年7月の八王子スーパー強盗殺人事件などは公訴時効廃止の見込みだが、同年4月に岡山県倉敷市で起きた放火殺人事件は時効が28日午前0時に迫っている。「殺人事件被害者遺族の会(宙(そら)の会)」会長として時効撤廃・停止を訴えてきた世田谷一家殺害事件の遺族、宮沢良行さん(82)は、改正を前に毎日新聞の取材に答え、「これから罪を犯す可能性のある人に犯罪を思いとどまらせる」と意義を語った。【聞き手・石丸整】 ――時効が廃止される見通しが強まりました。 ◆これから先も我々のように事件が起きて困る家族が出てくる。後々の人たちのために犯人が殺人を思いとどまるような、ほんのわずかでもいいことじゃないかと思います。 ――国会での議論が閣議決定から1カ月半と早かった。 ◆なるべく多くの人が議論して、廃止は認めていいんじゃないかということであれば、そうあってほしい。 ――時効廃止で犯人逮捕は増えますか。 ◆期待しています。警察の目のすきを縫ってのうのうと逃げ延びている犯人がいる。捕まえ残しが起きないようにお願いしたい。 ――冤罪(えんざい)が増えるとの指摘もあります。 ◆冤罪ほど悔しいものはないんじゃないでしょうか。一方で本当の犯人は「こっちは捕まる心配がない」と威張っている。そう考えると、国民にとって公平になるような法律の在り方に対する議論は、参加する人が、多ければ多いほどいい。 ――時効廃止で心の区切りになりますか。 ◆時効がなくなれば永久に捜査するということですよね。ぜひそうあってほしい。警察がずっと捜査することになり、これから罪を犯す可能性のある人に犯罪を思いとどまらせる。そういうことが国民のためになると思う。やってきて良かったなと思います。 ――宮沢さんの事件は、数十年後でも解決の可能性があります。 ◆犯人を捕まえるのはできれば早いほうがいい。なぜ4人殺したのか。理由が分からない。 ――理由がいずれ分かる可能性が出てきました。 ◆分かってほしいと思います。4人は私たち夫婦の楽しみの源泉みたいなものでした。仲良く楽しい理想的な家族でしたから。 ◇制度見直し求め「宙の会」を結成 宮沢良行さんは、2000年12月、一人息子のみきおさん(当時44歳)一家4人を一度に失った。 8年たった08年12月、上智大生殺害事件(96年9月発生)の遺族、小林賢二さんとともに記者会見し、「殺人の時効撤廃・停止」など制度見直しを要望。みきおさんの妻泰子さん(当時41歳)の姉、入江杏さんや他の未解決事件遺族たちとともに、09年2月、宙の会を結成。会の「顔」として、代表幹事の小林さんとともに、国に思いを訴えてきた。 世田谷事件の犯人は、現場に残した柳刃包丁の柄などに一家と異なるA型の血痕や指紋を残しており、容疑者が浮かべば、逮捕されるとみられる。 ◇即日施行が必要 倉敷の放火殺人、時効回避には 刑事訴訟法改正案は27日午後成立見通しだが、半日後の28日午前0時に時効を迎える殺人事件がある。改正法は公布と同日施行されるが、法の成立から公布まで約1週間かかるのが通常。はざまで迎える時効を回避するには、成立日に施行する極めて異例の手続きが必要だ。千葉景子法相は23日の閣議後会見で「成立したらできるだけ公布・施行をスピーディーにしたい」と述べ、政府内で早期施行が可能か調整を始めている。 事件が起きたのは95年4月28日未明。岡山県倉敷市で男性(当時70歳)方から出火、男性と妻(同66歳)2人の頭部を切断された遺体が見つかった。県警は放火殺人事件として捜査を進めたが、未解決だ。【石川淳一】

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