エルサレム(CNN) わずか1週間前まで、イファト・トメルイェルシャルミ少将はイスラエル軍の法務局トップとして、軍内における法の支配の執行を担っていた。 現在、トメルイェルシャルミ少将は、映像流出に関する刑事捜査の一環として逮捕されている。映像には、悪名高いイスラエル軍刑務所でパレスチナ人の被拘禁者へ行っていたとされる性的虐待を含む虐待の様子が映っている。 イスラエルの右派がかねて標的としていたトメルイェルシャルミ少将の急速な失脚は、たちまち国家的スキャンダルとして浮上。その結果、疑惑の中心にあった映像の件は注目が薄れている。 問題はイスラエル国防軍(IDF)の司法当局が兵士らへの捜査を開始した2024年7月に遡(さかのぼ)る。兵士らはガザ紛争中に逮捕されたパレスチナ人の被拘禁者に対し、スデ・テイマン軍事刑務所近くで性的暴行を加えたとされる。その付近では他の被拘禁者約20人もうつ伏せになって横たわっていた。 捜査とそれに続く兵士たちの逮捕は激しい政治的反発を招いた。ネタニヤフ首相率いる連立政権の右派メンバーの一部は、スデ・テイマン軍事刑務所並びに兵士たちが連行された軍事裁判所の前で抗議活動に加わった。 虐待の模様を捉えたとされる映像は24年8月にイスラエルのチャンネル12で初めて放映されたが、基地の状況に関してはそれ以前から懸念を引き起こす内容が報じられていた。24年5月、CNNはスデ・テイマン軍事刑務所での虐待疑惑を詳細に語った3人の内部告発者にインタビューした。それから1カ月後、イスラエルは同施設の段階的な閉鎖に着手することを明らかにした。 それでも、軍の法務局トップに対する激しい非難は収束しなかった。 今年10月29日、イスラエルの検事総長が情報漏洩(ろうえい)に関する刑事捜査を開始すると発表したことを受け、トメルイェルシャルミ少将は軍法務担当トップの職を停止された。 2日後、少将は辞表を提出。映像の公開を承認したことを認め、「部隊内からメディアに公開されたあらゆる資料について全責任を負う」と述べた。 少将は書簡の中で「最悪の被拘禁者に対してさえ、やってはならないことがある」と主張。「(法務)部隊の将校たちは度重なる個人攻撃、激しい侮辱、そして実際の脅迫さえも受けてきた。これはすべて、彼らが指揮官たちと共にIDFにおける法の支配を守り抜いたからに他ならない」と指摘した。 イスラエル政界の右派勢力にとって、辞任と調査だけでは不十分だった。トメルイェルシャルミ少将が辞任した数時間後、カッツ国防相は、階級剥奪(はくだつ)を含めて「必要なあらゆる制裁」を科すと述べた。カッツ氏はトメルイェルシャルミ少将が兵士に対する「血の誹謗(ひぼう)中傷」に関与したと糾弾したが、映像の信憑(しんぴょう)性に疑問は浮上しておらず、25年2月には被拘禁者への虐待で兵士5人が起訴されてもいる。兵士らは不正行為を否認している。 ネタニヤフ首相は2日、今回の映像流出を「イスラエルの評判への甚大な打撃」、「イスラエル史上最悪となる広報の大惨事」と形容した。