スカウトへ情報漏洩 3万人教えた元警察官僚が語る大きな二つの影響

国内最大級のスカウトグループ「ナチュラル」に捜査情報を漏らしたとして、捜査を担当する警視庁の警部補(43)が12日、地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕された。捜査情報の秘密を徹底することがなぜ重要で、漏らすと何が起こるのか。田村正博・京都産業大教授(警察行政法)に聞いた。 警察官僚として、36年間勤務しました。福岡県警本部長として暴力団排除条例の制定に携わり、警察大学校長や講師として累計3万人の都道府県警察の幹部に、警察の在り方についての講義を行ってきました。 捜査情報が漏れると、大きく二つの影響があります。一つ目は、容疑者の逃走や証拠隠滅の恐れが出ることです。そうなれば立件ができなくなりかねません。 二つ目は関係者の名誉や権利を侵害する恐れが出ることです。捜査されていることが分かれば、誰が被害者なのかや、情報を提供したのかが分かる場合があり、関係者に影響が出る可能性があります。 そのため、警察組織内では、絶対に情報は漏洩(ろうえい)してはいけないということが強く言われています。たとえ同じ組織内だとしても、必要のない人が捜査情報に触れないようにしています。 「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)のような組織犯罪の捜査では、情報がとても重要です。個別の事件を捜査して逮捕しても、それだけでは解決しない。組織の中心部をたたかない限り、いつまでも犯罪を減らすことができません。組織の中を知る人からの情報がとても大事になります。 トクリュウ対策では、まずはターゲットを定めるところから始めないといけません。そのため、どんなメンバーがいて誰とつながりがあるのかといった情報がとても大事です。事件とは関係ない交友関係やお金の流れなどの別の情報と合わせて、新たな事実が分かることもあります。 今回の捜査対象に関しては、手探りで長く捜査して、やっと少しずつ解明が進んでいる中だったと思います。また、一般的に40代の警部補というのは、現場の最前線で捜査にあたる中心的な立場で、脂の乗りきった主軸メンバーです。事件の捜査への具体的な影響は分かりませんが、トクリュウと戦う組織として、あってはならない事態といえます。 ただ、組織犯罪の情報を得るための適切な手段が確立されていないという課題があります。相手もタダでは情報をくれません。そんな中で、漏洩をせずに情報を取れるかどうかが、個人の力量に左右されています。現場に無理を強いているとすれば、警察組織としての課題だと感じます。(聞き手・山本知佳)

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