警視庁に逮捕され、拘束具で体をきつく縛られた後に死亡したネパール人の遺族が、都と国に賠償を求めた訴訟の控訴審判決が19日、東京高裁(相沢真木裁判長)であり、判決は都に約3900万円の賠償を命じた。一審・東京地裁判決はネパール人であることを理由に約100万円のみの賠償を認めたが、高裁は金額を大幅に増やした。 亡くなったのはシン・アルジュン・バハドゥールさん(当時39)。2017年、他人のクレジットカードを所持した占有離脱物横領の疑いで警視庁新宿署に逮捕された翌日、署内の保護室に入れられた。計2時間、ナイロン製のベルト手錠などで両手首や両足を固定されるなどした後に突然意識を失い、死亡した。 23年の一審判決は、死亡の原因は長時間の強い圧迫だと認め、署員が病院搬送をしなかったことなどは違法だと判断。しかし、日本人なら数千万円にのぼるはずの賠償額は約100万円とした。 ■わずか100万円 その理由は 国家賠償法は、「公務員が違法に他人に損害を与えれば、国や自治体に賠償責任が生じる」と定める。被害者が外国人の場合は「被害者の国で日本人も国家賠償を請求できる時」のみ、日本での請求を認めると定めている。「相互保証主義」と呼ばれる考え方だ。 ネパールでは、外国人にも適用される賠償の法律はあるが、金額の上限は日本円で10万円程度。政府が約100万円を支払った過去の例に基づき、一審は賠償額を約100万円だけ認めた。 しかし、過去の多くの裁判例ではこうした金額の制限がなく、弁護側は「金額の制限は不合理な差別だ」として控訴していた。 高裁はまず、署員らが繰り返しベルト手錠などをきつく締めてアルジュンさんの血流を阻害させたこと自体が違法だったと判断した。 そのうえで、各国の法制度を詳しく比較することは容易ではなく、相手国に「同程度の賠償」を厳密に求めるのは人権の観点からも不合理だと指摘。ネパール人にも日本の国賠法が同様に適用されるとし、アルジュンさんが今後の人生で得られたはずの逸失利益や慰謝料など計約3900万円の支払いを都に命じた。国への請求は一審と同様に認めなかった。 原告側代理人の小川隆太郎弁護士は、「地裁は法律に明記されていない上限を勝手に設定したが、高裁は真っ当に判断した。控訴審では裁判官にも実際に拘束具をきつく締められる痛みを体感してもらったことも、都の違法性が認められた理由の一つではないか」と判決を評価した。(黒田早織)