「人は変われる」だけど… 前科者の立ち直りに必要な社会のまなざし

2025年6月に刑法が改正され、「懲らしめ」から「立ち直り」へと重点を置く拘禁刑が導入されました。しかし前科がある人への社会のまなざしは、決して温かいものではありません。元受刑者の湯浅静香さんを招き、その現実を伝える記者サロン「人は変われる 前科のある私が支援者になるまで」を収録、配信中です。 湯浅さんは10年前、万引きにより3度目の逮捕となり、懲役1年11カ月の実刑判決を受けました。拘置所や刑務所で、自身が薬物依存をベースにした窃盗の「依存症」だったと気づき、仮釈放後、元受刑者や依存症の当事者・家族を支援する一般社団法人「碧(あお)の森」を立ち上げました。 湯浅さん自身、前科があることを理由に高校時代からの友人にLINEをブロックされたり、法人の銀行口座が開設できなかったりなど、偏見や差別に直面することが少なくないそうです。 また、母親から虐待を受けるなど機能不全家庭に育ち、互いに依存することで悪循環に陥ってしまう共依存関係にもあったことを明かしました。 こうした過去を率直に語る湯浅さんに「何事もまずは知ることから始まると思う。やはり経験者の話は重い。受刑者の前途は想像以上に過酷だった」(香川県・60代女性)、「まるで胸の奥に静かに火がつくような時間でした。『人はどこまで変われるのか』という問いに、湯浅さんは実例そのものとして立っておられ、こちらの背筋まで伸びる思いでした」(長野県・50代男性)といった感想が寄せられました。 ■「本当にクソでした」からのスタート 私が湯浅さんと出会ったのは、拘禁刑に関する勉強会がきっかけでした。数々の失態や裏切りを「本当にクソでした」と赤裸々に語りつつ、どうやってその状態から抜け出したのか、実名で顔を出し、等身大に語る姿を「かっこいい」と思ったのが第一印象です。 延べ5時間近い取材は、私自身、初めて聞く話ばかりでした。そして、私自身の中に潜む偏見にも気づきました。 先日、刑務所を訪問して矯正の現場を取材しました。罪を犯した人たちは、それぞれがさまざまな物語を抱えていました。拘禁刑の導入により、その物語をどう塗り替えていくのか、現場では試行錯誤が続いています。 「人は変われるのか」という問いに対して、私は「変われる」と思います。しかし、それは本人の努力だけで成し得るものではないでしょう。 更生も刑務所の中だけで終わるものではありません。出所後の周囲の人とのつながりや置かれた環境など、社会の側も変わる必要があると強く感じました。 今回の記者サロンが、前科がある人が置かれている状況や、立ち直りについて考えるきっかけの一助になればと思っています。 視聴のお申し込みはhttps://t.asahi.com/wppaから。(編集委員・岡崎明子)

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