茨城・古河老健殺人 無罪主張 水戸地裁初公判 「殺害していない」

茨城県古河市の介護老人保健施設で2020年、入所者の高齢男性2人の体内に空気を注入して殺害したとして、殺人などの罪に問われた元職員で同市、無職、赤間恵美被告(39)の裁判員裁判初公判が10日、水戸地裁(山崎威裁判長)で開かれ、赤間被告は起訴内容について「私は空気を注入していません。殺害していません」と否認し、殺人罪について無罪を主張した。 公判では入所者2人が他殺かどうかと、赤間被告による犯行かどうかの2点が争点となる。 起訴状によると、赤間被告は同市仁連の老健施設「けやきの舎(いえ)」で20年5月30日に鈴木喜作さん=当時(84)=を、同年7月6日に吉田節次さん=当時(76)=を、いずれも点滴用チューブにシリンジ(注射筒)をつなげて静脈内に空気を注入し、気体で血管が閉塞する空気塞栓(そくせん)による急性循環不全で殺害したとされる。 検察側の冒頭陳述によると、鈴木さんの静脈などには外部から注入された空気が計123~182ミリリットル以上入っていた。この量を連続的に注入すれば空気の塊が肺動脈に達し、空気塞栓で心肺停止になるという。鈴木さんの当時の健康状態は良好だった。 さらに、コロナ禍で入館制限があったため、内部の犯行と主張した。約30分の犯行時間帯に赤間被告は鈴木さんの部屋に2回入り、赤間被告が周囲に「顔色が白い」と報告した後に職員らが駆け付けると、心肺停止状態だったと説明。ほかに入退室の目撃情報はなく「被告人以外に犯行可能な人物はいない」とした。 吉田さんが死亡した当日には同僚が赤間被告の所持品を確認し、赤間被告のトートバッグ内に容量20ミリリットルのシリンジ2本を発見。先端に点滴用チューブに接続した際に生じる痕跡があったといい、「そもそもシリンジを所持している合理的理由が全くない」と述べた。 一方で、弁護側は「高齢者施設で入所者が亡くなった出来事であり、殺人事件ではない」と反論。鈴木さんが当初病死として扱われ、司法解剖されなかったため、「正確な死因の判断は困難」と主張。持病があったことから、「心臓病で亡くなった可能性がある」として事件性や犯人性に疑いが残ると述べた。 公判は入所者2人に対する殺人の罪を分けて審理し、死亡した鈴木さんの審理から始まった。施設職員や医師など約140人の証人出廷が予定されている。被告は21年11月に同市内のスーパーで食料品などを盗んだとして窃盗罪にも問われ、同罪については起訴内容を認めた。 ■落ち着いた様子で否認 逮捕から約4年を経て、赤間恵美被告の公判が始まった。 黒のパンツスーツに白シャツ姿で法廷に立った赤間被告。「私は空気を注入していませんし、殺害していません」。入所者2人に対する殺人の罪についてそれぞれ認否を問われると、同じ言葉を繰り返して無罪を主張した。 公判中は弁護人の隣に着席し、机の上に資料とノートを広げて臨んだ。時折、傍聴席に目線を向けたが、正面に立つ検察官が主張を述べると、顔を上げ、落ち着いた様子でじっと耳を傾けた。 赤間被告は事件後の2020年11月に結婚。夫と子ども1人がいる。中学卒業後に看護師養成の専門高校に進学し、06年から病院で看護師として働くも3年ほどで退職。一時看護師に復帰したが、その後は自宅で生活していたという。 事件があった古河市の施設に採用されたのは20年4月。看護師としては約7年のブランクがあった。検察側は「仕事になじめずストレスを抱えていた」と主張し、通院先の精神科医師に職場の不満を漏らすこともあったという。 ■傍聴券倍率5.8倍 この日、水戸地裁には17枚の傍聴券を求めて99人が立ち並び、抽選倍率は5.8倍となった。 整理券の配布が午前9時に始まり、30分後に当選者の番号が張り出された。傍聴券を手にできなかった人からは落胆の声が漏れた。

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