「政治的嫌がらせというより実戦想定の軍事シミュレーション」中国レーダー照射問題に日本はどう対応?ジャーナリストが解説「圧倒的な防衛費」「尖閣漁船衝突の時とは危険度が違う」

中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射問題を受けて、日中関係はさらに緊張が高まっている。 そうした中、両国をつなぐ“パンダ”の行方にも注目が集まっている。6月に和歌山から返還されたパンダ「楓浜(フウヒン)」を一目見ようと、中国・成都市の施設にパンダファンたちが訪れた。 パンダに関する児童書を多数執筆する神戸万知さんは、「日常がなくなるのは、どうしようかなと思う。私たちはひたすらパンダを愛でて、みんなが仲良くしてくれるといいなと思っている」と語る。 パンダは日中友好の象徴とともに、「安全保障の象徴」とも言われてきた。1972年の日中国交正常化でパンダは初来日し、カンカンとランランは大人気になった。中国への経済支援を打ち出した大平政権の1980年には、ホアンホアンが来日した。 一方で、靖国神社参拝で中国との関係が緊張した中曽根政権(1982〜1987年)や小泉政権(2001〜2006年)では、パンダの来日がゼロだった。中国との改善を図った宮沢政権(1992年)には、上野にリンリンが来日。社会党の村山総理が誕生(1994年)すると、和歌山に永明と蓉浜の2頭がやってきた。 日中国交正常化30周年の気運を盛り上げた森政権では、神戸に2頭(興興、旦旦)、和歌山に1頭来日(梅梅)。尖閣諸島問題で民主党の菅総理が逮捕した船長を釈放した翌年には、上野に2頭(リーリー、シンシン)来日した。ちょうどその頃、GDP世界第2位を42年維持してきた日本が、中国にその座を奪われた。 そして第2次安倍政権以降、日本にやってきたパンダはゼロだ。因果関係は明らかでないが、結果として日中関係とリンクしているように見える。 ジャーナリストの青山和弘氏は「高市政権で日中関係は、過去とは違う新たなフェーズに入った」と指摘する。高市早苗総理の「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうる」との発言を発端に、日中関係は再び悪化している。 そんな中で起きたのが、中国からの「レーダー照射」問題だ。中国側と日本側の「無線のやりとり」とされる音声によると、中国側が「こちらは中国海軍101艦。当編隊は計画どおり、艦載機の飛行訓練を実施する」とし、日本側は「中国101艦。こちらは日本116艦。メッセージを受け取った」と返したという。 日本の防空識別圏内で、中国の空母「遼寧」から発信した戦闘機J-15が、航空自衛隊の戦闘機F-15に対して、2回にわたりレーダー照射を行ったと小泉進次郎防衛大臣が発表した。1回目は約3分間、2回目は約30分間、連続的にレーダー照射が行われたという。 中国外務省の郭嘉昆副報道局長は「中国の海軍報道官は、事前に訓練の海空域を発表している。なぜ訓練活動を妨害し、緊張状態を作り上げようとしているのか、日本側に聞いて欲しい」と発言。一方の小泉防衛大臣は「通常、自衛隊では行うことのないアンプロフェッショナルな行為」だとの見解を示した。 そもそもレーダー照射とは何なのか。元航空自衛隊1等空佐の朝長雅彦氏に話を聞いた。朝長氏は1986年に自衛隊入隊後、26歳で主力戦闘機F-15のパイロット資格を取得し、46歳まで活躍した。 「スクランブル待機所というものがあり、そこに24時間詰めているパイロットがいる。ここに『今どの方向から、どういうと思われる軍用機が南下している』と一報が入る。指令を受けたパイロットは、5分以内に飛び上がらなければならない」(朝長氏) 朝長氏によると、レーダー照射には機体の「捜索目的」のものと、標的をロックオンする「火器管制」に分かれ、今回のケースは照射されたとする時間から“ロックオン”ではないかと見る。「F-15であれば『自分の味方が今ロックオンした』と表示される」。 ロックオンされると、その脅威度によって異なる音が出て、パイロットに知らせるという。「ロックオンされたら、まずは回避動作を行う。ミサイルが当たらないであろう、もしくは撃たれても速やかにミサイルの有効射程・有効範囲外に出られるであろう軌道を取る。ものすごい緊張感と緊迫感、時には恐怖心を持ってやっている」。 あくまで捜索目的だとする中国側は、「事前に通告した」と音声データを公開し、責任は日本側にあると主張する。対する小泉防衛大臣は「訓練を行う時間や場所の緯度経度を示すノータム(航空情報)もなく、船舶等に示す航行警報も事前に通報されていない」と説明している。 レーダー照射を受ければ、その記録は残るというが、それを公表しないのには訳があると朝長氏は推測する。「レーダー照射を受けたという物的または電子的な証拠は、ちゃんとあると思う。機材に関しての情報等を詳細に公表することは、その機材等の性能を公表することになる。具体的な情報の公表は、極めてシビアにコントロールされていると思う」。 では、なぜ中国は、一歩間違えば武力衝突となりかねない危険な行為を行ったのか。 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、今回の行為を“政治的パフォーマンス”ではなく、実戦を想定した行動だと指摘する。「高市総理の発言で緊張が高まっているが、それで急に決めたということではない。おそらく台湾有事が将来あると仮定すれば、その時に自衛隊と米軍と海域でのにらみ合いになる。どういった行動をすれば自衛隊や米軍がどう出てくるか。自衛隊に対して嫌がらせをするというような政治的な動機よりは、むしろ軍事的なシミュレーションをかねて、いろいろなことを試してみるということだ」。 国際法上の扱いについては、「国際法上では武力行使にあたらない。現場では当然、危険行為・挑発的な行為と受け止められる。ただ国際法や条約等で禁じられているということにはならない」との見解を示す。 中国はどうして、ここまでしてくるのか。「海域(場所)と装備。空母が入ってきて、艦載機を飛ばす。かなり実践を想定したシミュレーション・訓練をやっている。台湾海峡で緊張が高まっている時期に、こんなことがあったら交戦になりかねない」。 今後について青山氏は「保守層の支持を受けて総理総裁になった高市氏は、そう簡単に謝罪や発言の取り消しができない状況だ」とみる。そこには米中関係も大きく影響し、「トランプ大統領は、習近平国家主席と良好な関係を保ちたいと考えている。一方、習近平氏はアメリカが米中関係を重視すれば、日本に対する強硬な姿勢をさらに強めていくとみられる」と考察する。 2026年2月までに上野動物園のシャオシャオとレイレイが返還されると、日本国内のパンダはゼロになる。しかしこの問題は、当面解決しないと青山氏は予想する。「関係改善の糸口が見えない中で、政府内では来年11月に中国で開かれるAPECまで、首脳が接触する機会を作れないのではという見方が出ている」。 「仲良くしてほしい。平和の架け橋として、これからも私たちをつないでいく存在であってほしい」(神戸さん) 青山氏が解説する。「日本は憲法9条の制約があり、レーダー照射を受けても打ち返さないことになっているが、アメリカの空軍機なら打ち返していたのではないかと言われている。相手が拳銃を構えているため、一種の正当防衛に含まれる。撃たれたら終わりのため、反撃する権利もあるとされる。こういう警告音が鳴り続けると、病む人もいるという。それだけの緊張感の中で今回、航空自衛隊はスクランブル発進した30分間、領空侵犯しないように警戒・監視して、任務を遂行した」。 内容の詳細については「機密情報のため、いつ発表するかは防衛省内でも意見が分かれたが、小泉氏は7〜8時間ですぐ公表した。これは小泉氏らしい行動で、国民にすぐ知らせて、危機意識を共有してもらおうとした。防衛省内には慎重論もあったが、今回は極めて早く発言した。その時、オーストラリアの国防相も来日していたので、懸念を共有した」と解説する。 今回の件は、尖閣諸島で起きた漁船衝突とはレベルが違うとの声もある。「2010年に海上保安庁の船に漁船が衝突してきた。船長を逮捕したが、その後レアアースが輸出禁止になり、なにより緊張が高まったのは、日本人のビジネスマン4人が(中国で)拘束されたこと。当時の菅直人総理と仙谷由人官房長官が『日中関係をこれ以上悪くできない』と船長を釈放し、超法規的に国外退去処分にした。これにより4人は解放され、パンダも来た」。 しかし今回は「軍の衝突の可能性があるところまで来ている」という。「2010年に空母は1隻もなかった。いま中国は空母を3隻持ち、沖縄の東海岸まで来て、このような行動を取っている。軍事力が当時と違う。中国の防衛費は一気に上がり、日本(2025年度は8兆4748億円)の4〜5倍になっている。いまの日中関係の緊張は、尖閣諸島で漁船が衝突した時とは危険度が違う。空母があるということは、中国の空軍基地が沖縄の近くまで来て、日本に直接脅威を与えられる状況だ」。 火種となった高市総理の発言については、「法的に間違ったことは言っていないが、具体的な事例をあげて『存立危機事態に当たるかもしれない』とした。これに中国側は強く反発しているが、ただ反発しているだけでなく、習近平国家主席が『大変な発言だから厳しくやらないと』と言っている。その状況下で、レーダー照射も間違いなく意識的にやっている。偶発的ではない。高市総理も発言を撤回したりなかなかできない状況の中で、どこまでこの事態がエスカレートするのか。日本人ビジネスマンの拘束まで発展するのかなどが懸念されている」と話す。 打開策は「ひとつは国際社会を味方に付ける。レーダー照射は国際的にも絶対にやってはいけないこと。各国とともに、やってはいけないことだと言う。さらにアメリカを味方に付けることが大事だ。ただ大きな問題として、トランプ氏が中国と仲良くしたいフェーズにあるため、ホワイトハウスが今回の問題に懸念を示していない。『日本は同盟国だが、中国ともうまくやりたい』となると、習氏も強気のままだ。アメリカを巻き込むということ。一方で総理や外務大臣、国会議員団など、いろいろなルートを通じて、中国とパイプを持ち、国際社会もこれだけ警戒している、だからあなたちも矛を収めないといけないよと、刈り取り作業を行わないといけない。そのコントロールがどこまでできるかが、高市政権の大きな焦点だ」とする。 また、青山氏いわく、「パンダは中国の外交戦略の道具」だという。「和歌山のパンダが一斉に返されたが、和歌山で生まれたパンダまで『中国のものだ』と返されている。上野のパンダも期限が切れればいなくなる。パンダの行き来を決められるのは、中国で2人しかいない。習氏と李強首相だ。習氏が高市総理の発言に怒っているとすれば、パンダは間違いなく来ない。かといって、パンダのために筋を曲げるのも違うだろう」。 日中関係は今後どうなるのか。「次の日中首脳会談をいつできるのかはわからないが、必ずできるのが来年11月だ。APECが中国の深圳で開かれる。高市氏が行けば、ホスト国の中国は首脳が必ず出迎える。そこで初めて会える可能性はあり、『1年間いろいろありましたけど』と話せるか。そうなると1年間は硬直状態が続くため、パンダは帰ってしまうかもしれない」。 和歌山にパンダが多かったのは、元自民党幹事長の二階俊博氏の影響力なのか。これに青山氏は「はっきりはわからないが、二階氏の力があったというのは間違いないと思う。二階氏が力を失い、一気にいなくなった。いろいろなタイミングもあったと思うが、その中で中国はうまくパンダを使った」と説明した。 (『ABEMA的ニュースショー』より)

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