【ソウル聯合ニュース】2025年の韓国は重苦しい雰囲気のなかでスタートした。24年末に「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領(当時)は国会で弾劾訴追案が可決され職務停止になったものの、自らの正当性を訴えて国内は分裂した。韓国は国際社会から信任を失い経済も低迷した。4月に憲法裁判所が尹氏の罷免を決定すると、ようやく社会は落ち着きを取り戻し始めた。6月の大統領選挙に勝利した李在明(イ・ジェミョン)大統領は国内の課題を克服するとともに、積極的な外交を展開。米国との関税交渉を妥結させ、自国開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を成功に導いた。政治の安定とともに経済も次第に上向き、総合株価指数(KOSPI)は史上初の4000を突破した。一方で、大手企業からの大規模な個人情報流出や「闇バイト」のためにカンボジアに渡った若者が死亡したり、国際詐欺事件に関与したりする衝撃的な事件も起こった。25年は韓流人気も健在で、K―POPやドラマの世界的ヒットに続き韓国創作ミュージカル「メイビー、ハッピーエンディング」が米演劇・ミュージカル界のアカデミー賞と呼ばれるトニー賞で6冠に輝いた。 ◇初の現職大統領の身柄拘束 憲法裁は全員一致で罷免決定 24年12月に「非常戒厳」を宣言し韓国を揺るがした尹錫悦大統領(当時)は逮捕され、罷免された。 尹氏に対する捜査は戒厳解除直後から始まった。警察と独立捜査機関「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」は今年1月15日にソウル・漢南洞の大統領公邸に立ち入り、尹氏を拘束した。韓国現職大統領の身柄拘束は史上初めて。検察は同月26日に内乱首謀罪などで尹氏を起訴した。 尹氏の罷免の是非を決める憲法裁判所の弾劾審判が本格化するなか、賛否両派によるデモが続き、都心の各所で深刻な混乱が続いた。憲法裁は4月4日、国会の弾劾訴追を裁判官全員一致で認め、大統領を罷免する判断を下した。憲法裁は尹氏が軍や警察を動員して国会など憲法機関を毀損(きそん)したほか、国民の基本的人権を侵害して憲法を守る義務に背いたと指摘した。 6月の李在明政権発足後、尹氏の戒厳宣言を巡る内乱事件を捜査する特別検察官のほか、尹氏の在任中に起きた疑惑を捜査する2人の特別検察官が任命され、7月から活動を開始した。 内乱事件を捜査する特別検察官は12月14日、計27人を起訴する内容の捜査結果を発表した。 海兵隊員殉職事故を巡る捜査妨害疑惑を調べる特別検察官は23年7月に水害による行方不明者を捜索中だった海兵隊員が殉職した事故で、海兵隊の捜査団が当時のイム・ソングン第1師団長など幹部らに業務上過失致死の疑いがあるとしたことに尹氏が激怒し、イム氏らを容疑者から除外するよう圧力をかけた疑惑を捜査した。 尹氏の妻、金建希(キム・ゴンヒ)氏を巡る不正疑惑を捜査する特別検察官は金氏の国政介入を明るみにした。 ◇「3年ぶり政権交代」 李政権が国の正常化に総力 尹錫悦前大統領が「非常戒厳」の宣言により弾劾訴追・罷免されたことを受け、6月3日に実施された早期大統領選で、革新系野党だった「共に民主党」の李在明候補が、保守系与党だった「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)候補らに勝利し、第21代大統領に当選した。非常戒厳宣言に端を発した政局混乱の中、国民は3年ぶりに政権交代のカードを選んだ。 李政権は「国民主権政府」という名の下、引き継ぎ委員会なしに発足。国の正常化を最優先に「成長と回復」に集中した。 非常戒厳の影響で止まった経済の回復と首脳外交の正常化にも力を入れた。 とりわけ、総合株価指数(KOSPI)の5000達成を公約に掲げ、金融市場の活性化を図った。KOSPIは政権発足から16日で3000を超え、10月には史上初めて4000台に乗せ、好調を維持している。 「国益中心の実用外交」を掲げ、最大の難関とされた韓米関税交渉では、3500億ドル(約53兆円)の対米投資を行う代わりに相互関税などを15%に引き下げる内容で最終合意にこぎつけた。 10月末に慶州で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では世界の耳目が集まる米中首脳会談が行われ、今年の首脳外交の舞台の中で白眉と評された。 ◇韓国・慶州でのAPEC首脳会議で大きな成果 南東部・慶州で10月31日から11月1日までアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催された。 APEC首脳会議の韓国開催は釜山で開いた2005年以来、20年ぶりで、各国首脳の好評を得て成功裏に終了した。特に昨年12月3日の尹錫悦前大統領による非常戒厳宣言以降、韓国外交の完全な国際舞台復帰を遂げた場として評価された。 APEC加盟国の首脳らは会議で貿易・投資、デジタル・革新、包容的成長などの懸案に関する議論を盛り込んだ「慶州宣言」を採択し、人工知能(AI)や人口構造の変化に共同で対応する方針も確認した。 会議の開催期間中、韓国は韓米首脳会談を通じて最大の課題だった関税交渉を一段落させ、原子力潜水艦建造に対する米国の承認を得るという成果を上げた。李在明大統領は韓中、韓日首脳会談も行い、「国益中心の実用外交」を実現した。 歴代最大規模の1700人を超える国内外の最高経営責任者(CEO)が参加したAPECのCEOサミットも成功裏に終了した。同サミット出席のため来韓した米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEOとサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長、現代自動車グループの鄭義宣(チョン・ウィソン)会長がソウル市内の飲食店でフライドチキンとビールを楽しみ、話題となった。 ◇韓米関税交渉妥結 原潜建造・ウラン濃縮・使用済み核燃料再処理に弾み 政府は10月末の韓米首脳会談を機に米国との関税交渉を最終妥結し、韓国の原子力潜水艦建造、ウラン濃縮・使用済み核燃料の再処理の権限拡大に対する米国の支持を確保した。 こうした内容は、韓米首脳間の合意事項をまとめた「ファクトシート」として公式に文書化された。 韓米両国は7月に合意した通り、米国の対韓相互関税を4月に予告された25%から15%に引き下げ、主要輸出品目の一つである韓国製自動車に対する関税も25%から15%に引き下げることを決めた。これに対し、韓国は計3500億ドル(約54兆円)規模の対米投資を約束した。 安全保障分野では、韓国が切望していた原子力潜水艦導入の承認を得るという成果を上げた。また、ウラン濃縮と使用済み核燃料の再処理の権限拡大に対する米国の支持も取り付けた。 ◇検察庁が78年の歴史に幕 起訴権と捜査権を分離 検察庁を廃止し、法務部所属の公訴庁と行政安全部所属の重大犯罪捜査庁をそれぞれ新設する内容の政府組織法改正案が9月の国会本会議で可決した。1948年に設立された検察庁は来秋、78年の歴史に幕を閉じることになった。 来年9月に改正政府組織法が施行されれば、公訴庁に移される検察官は自ら捜査を開始することができず、警察から送られた事件の補完捜査だけが可能になる。ケースによっては補完捜査もできず、警察に「補完捜査の要求」しかできなくなる可能性もある。 政府与党は検察庁の捜査機能を重大犯罪捜査庁に移管する方針だが、蓄積されたノウハウや人材の流出は避けられないとの見方が出ている。政府は首相直属の「検察改革推進団」を設置し、検察庁廃止など刑事司法制度改編を巡る争点や改善策を議論している。 ◇米工場で韓国人労働者拘束される ビザ制度巡る問題が懸案に 米移民当局は9月4日(現地時間)、米ジョージア州で建設中の現代自動車グループとLGエナジーソリューションの合弁会社の電池工場で不法移民の取り締まりを行い、韓国人労働者317人を含む475人を拘束した。 拘束された韓国人労働者はLGエナジーソリューションの46人と協力会社の204人、現代エンジニアリングの協力会社の67人で、大部分が旅行者などが取得する電子渡航認証システム(ESTA)や短期商用(B1)ビザで入国し、工場の建設に携わっていた技術者だった。 米当局は拘束された労働者がビザの規定に違反していたと説明したが、規定の解釈を巡る論争が続き、有効なビザを所持していた人も拘束していたことが分かった。 また、拘束された労働者が手錠や結束バンド、足かせをはめられた姿が公開され、同盟国である韓国の社会的反発を招いた。 その後、トランプ米大統領は海外技術者の入国の必要性について言及し、ホワイトハウスも現代自動車側に謝罪したとされる。 今回の事態により、米国のビザ制度の解釈や運用、外国人投資家や人材の安定的な米国滞在に関する問題が両国間の懸案として浮上した。 ◇相次ぐハッキング 民間も公共機関もなすすべなし 個人情報のずさんな取り扱いが、相次ぐハッキング事件などで浮き彫りになった。通信大手のSKテレコムとKT、カード大手のロッテカード、ネット通販最大手クーパンなど大手企業を狙ったサイバー攻撃が相次ぎ、利用者の個人情報流出や2次被害の懸念が拡大した。数千万件の情報が流出したことも確認されており、国内のプラットフォーム・金融セキュリティーシステム全般への不信感が広がった。 公共領域も例外ではなかった。政府が管理するデータセンターである国家情報資源管理院の施設で発生した火災で、政府サイトのサービスの一部が利用できなくなり、行政・公共データへの依存度が高まった時代に、一つの事故が国家機能の全般に影響することを実感させた。 「デジタル基盤の安全」は国家安全保障と直結する。そうしたなかで繰り返された民間におけるハッキング、公共分野の物理的災害は新たな課題として浮上した。 政府は緊急のセキュリティー点検をするとともに再発防止策を発表したが、事後的な対応にとどまったとの批判にさらされた。 ◇カンボジアで大学生が拷問死 「闇バイト」明るみに カンボジアで8月8日、拷問を受けた韓国人男子大学生の遺体が見つかり、韓国社会に衝撃が走った。現地の犯罪組織に監禁され、強制的に違法薬物の投与を受けていたとされる。 この事件が明るみに出たことで、カンボジアに渡航した韓国人と連絡が取れないとする通報や届け出が全国で相次いだ。また犯罪組織から逃走し、大使館に連絡したが助けを受けられなかったとする証言も出てきた。 多くの若者が「高収入の海外アルバイトがある」などと誘われてカンボジアに渡航した事実が明らかになり、特殊詐欺など「闇バイト」を募集するサイトの捜査も始まった。 対応の遅れなど政府に批判が集まる中、外交部の金珍我(キム・ジナ)第2次官を団長とする合同対応チームがカンボジアに派遣され、これを機にカンボジア当局に拘束されていた韓国人犯罪容疑者64人がチャーター機で送還された。10月から12月12日までに国内に送還された韓国人容疑者は107人という。 政府はカンボジアと合意し、韓国とカンボジアの警察官が合同で韓国人を狙った特殊詐欺や監禁、人身売買などに24時間対応する「コリア専担班」を現地に11月に設置した。 コリア専担班は12月、カンボジア内の犯罪組織の拠点を急襲し、詐欺犯罪に関わっていた韓国人51人を検挙し、監禁・拷問されていた20代の男性を救出した。 ◇総合株価指数 初の4000超え 尹前大統領の非常戒厳宣言と弾劾政局、米トランプ政権の関税政策など超大型の悪材料に揺らぎながら2025年の取引を開始した韓国株式市場は下半期(7~12月)に入り、華麗な飛翔に成功した。 24年末に終値が2400を下回った総合株価指数(KOSPI)は今年12月12日時点で4167.16まで上昇した。上昇率は73.7%に上る。 韓国金融経済情報メディアの聯合インフォマックスによると、主要20カ国・地域(G20)と台湾の株式市場のうち収益率が最も高かった。 韓国の有価証券市場で今年4月まで9か月連続で売り越した外国人投資家が5月から買いに転じ、買い越しが続いたことがKOSPI上昇の呼び水となった。6月の新政権発足を前後し、本格的な強気相場に入った。 急上昇したKOSPIは10月27日に終値が史上初めて4000を超えた。1980年の発足から45年で未踏の領域に入り、夢の指数「5000」に向けて動き出した。 ◇ミュージカル「メイビー、ハッピーエンディング」 米トニー賞で6冠 米ニューヨークのブロードウェイに進出した韓国の創作ミュージカル「メイビー、ハッピーエンディング」が6月、米演劇・ミュージカル界のアカデミー賞と呼ばれるトニー賞の授賞式でミュージカル作品賞、ミュージカル脚本賞、オリジナル楽曲賞、ミュージカル装置デザイン賞、ミュージカル演出賞、ミュージカル主演男優賞の6冠に輝いた。 劇作家ヒュー・パーク氏は韓国人として初めてトニー賞のミュージカル脚本賞とオリジナル楽曲賞を同時受賞し、世界的クリエーターの仲間入りを果たした。 「メイビー、ハッピーエンディング」のトニー賞受賞は、映画やドラマ中心だった韓国コンテンツの拡張可能性を切り開いたという点で意義が大きい。 2020年に米アカデミー賞で4冠を獲得した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」、22年に米テレビ界最高峰の栄誉とされるエミー賞で6冠を達成した米動画配信大手ネットフリックスのオリジナル韓国ドラマ「イカゲーム」に続き、演劇作品でも韓国コンテンツの地位を世界に知らしめる快挙となった。 また、韓国がライセンス輸入国からオリジナルコンテンツ輸出国へと生まれ変わるきっかけにもなった。K―POPとドラマに加え、公演という新たな韓流のカテゴリーを開拓したという点でも意味を持つ。