のどかな田園風景が広がる大分県宇佐市安心院町。その静寂とは対照的な凄惨な事件が起きた。「この黒いの、血の跡がちょっとだけ残ってるんです」 被害者の次男・山名賢司さんが指さしたのは、電気スイッチの周りに残る黒ずんだ痕跡だった。母・高子さん(当時79)と兄・博之さん(同51)が自宅で殺害された事件から5年以上が経過した今も、当時の血痕は完全には消えていない。 ■今も点々と残る爪痕 2025年12月、山名さんの案内で、OBS記者が事件現場となった住宅に入った。 「主な血痕は業者を入れてきれいにしてくれているんですけど、少し残っているのはこういうところですね」と山名さんは説明する。電気のスイッチ周辺や壁の一部に、黒く変色した跡が点々と残っている。 住宅内部を案内しながら、山名さんは事件当時の状況を語った。 「リビングが犯行現場です。前のカーテンは処分し、警察が新しく取りつけてくれました」そう話し、かつて血痕が広がっていた場所を示す。今は通常の生活スペースとして使われているが、わずかに残る黒ずんだ跡が、かつての凄惨な光景を無言で訴えかけている。 ■「痛みと恐怖で引きつった表情」遺体との対面 山名さんが事件を知ったのは、当日の夕方だった。当時、滋賀県の自宅にいたところ、宇佐署から電話が入った。 「第一声は『驚かないで聞いてください』でした」家族と一緒にいた山名さんは、妻と子どもたちに「静かにしといて」と伝え、電話に集中した。 警察から告げられたのは、母と兄が殺害されたという衝撃的な知らせだった。すぐに仕事を休み、翌日には大分へ向かった。 最もつらかったのは、遺体との対面だったという。 「宇佐署で遺体確認をした際、顔中が傷だらけで、痛みと恐怖で引きつった表情がそのまま固まっていました」 その表情を見た瞬間、母と兄が感じたであろう痛みと恐怖が自分自身に乗り移ったかのような感覚に陥ったと振り返る。 「それは多分、忘れられないですね」