「今はとても反省しています」 法廷に小さな声が響いた。 長年連れ添った妻を殺めたのは、77歳の夫だった。 事件の背景にあったのは、「老老介護」の果ての「悲しき同意」だった。 ■後を追うことはかなわず それは2025年3月のことだった。 愛媛県愛南町の道路脇で、77歳の夫が、首にかけたロープを車で引いて、当時84歳だった妻を殺害するという痛ましい事件が発生した。 後を追うつもりだった夫は、その場でウイスキーと睡眠薬を飲み、意識を失った。 心中に失敗したことに気づいたのは、病院のベッドの上だった。 夫は、妻に対する自殺ほう助の容疑で逮捕され、嘱託殺人の罪で起訴された。 ◇◇◇ 事件から2カ月後。 松山地裁で開かれた初公判。 被告となった夫は、起訴内容を認めた。 ■病気に身体むしばまれ 死を望むように 死亡した、当時84歳の妻は、膠原病や骨粗しょう症などを患い、要介護認定を受けていた。 事件の2週間前には病状が悪化。背中に激しい痛みを訴えて寝たきりとなり、妹に「死にたい」と漏らしていた。 周囲から評判となるほどに、仲睦まじい夫婦だった。 夫は、献身的に妻の介護を続けた。 だが妻は、そんな夫に対しても頻繁に「死にたい」と話すようになっていく。 病苦にむしばまれる辛さは想像を絶していた。 事件の1週間前には、妻は、夫が不在の時を狙い、自宅で首を吊り自殺を図っていたが、不自由な身体でそれを遂げることはできなかった。 ■苦しむ姿を見かねた夫 妻の苦しむ姿を見かねた夫は、その希望を叶えた上で、自身も後を追うことを考えるようになる。 ホームセンターで、ロープや練炭などを購入して、その場所を探すようになる。 ■「僕も一緒に逝きます」喜んだ妻 事件前日の夜、夫は「僕も一緒に逝きます」と覚悟を伝えた。 それを聞いた妻は、嬉しそうにしていたという。 最終的に、最期の場所を決めたのは妻だった。 夫は、輪を作ったロープを木に結ぶと、その下にパイプ椅子を設置した。 睡眠薬を大量に飲んだ妻の身体を抱きかかえ、車の外へ連れ出す。 そしてパイプ椅子の上に立たせようとした。