性的接触を目的に未成年者をはじめとした児童に接近し、信頼関係を利用してコントロール下におく“チャイルドグルーミング”(以下、グルーミング)。信頼関係を築いた上で性加害を行うため、子どもの抵抗感を失わせ、それが性暴力であることすらわからないように加害を行うのが特徴だ。近年、聞かれるようになったこの言葉をテーマに描いた漫画が『娘をグルーミングする先生』(のむ吉:著、斉藤章佳 西川口榎本クリニック副院長(精神保健福祉士・社会福祉士):監修/KADOKAWA)だ。 主人公の佐倉真美は女手ひとつで子どもを育てるワーキングマザー。高校1年生の娘・小春の成績が落ちていることに愕然とし、塾を探すことに。小春が通うことになった塾の塾長・森先生はとても真面目そうな人。森先生のおかげで小春の成績も次第に上がっていきすっかり安心していた真美だが、ある日小春から「ママに会わせたい人がいる」との言葉が。交際相手として連れてきたのはなんと森先生。森先生との交際を反対する真美だったが、小春は聞く耳を持たず……。 本作の監修をした西川口榎本クリニック副院長で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳(あきよし)先生に、グルーミングについて話を聞いた。 ――先生は性犯罪、児童虐待、DV、アルコール依存症、クレプトマニア(窃盗症)などさまざまな依存症問題、その中でも加害者臨床に長年携わられています。監修としてどのように作品に関わられたのでしょうか? 斉藤章佳さん(以下、斉藤):監修の場合、まだ完成していない段階の漫画を読んで、作品に対して専門的な視点で意見を述べていきます。しかし、今回の場合はそれほど大きく手直しした記憶はないです。著者ののむ吉さんが事前にしっかり勉強されたのだなと感じました。 ――本作を監修する上で気を付けた点はありますか? 斉藤:そもそもグルーミングとは、性的加害を目的に子どもと信頼関係を築き、手懐ける行為を指します。ケースによっては被害者本人の子どもだけではなく、その周辺環境や家族ともつながりを作って、子どもへの性的加害への抵抗感を減らした上で行為に及ぶのです。 ポイントとしては、グルーミングは顔見知りの関係で行われる場合と、顔見知りじゃない関係の人から行われる場合、SNSを通じて行われる場合の3パターンがあります。 また、グルーミングには段階があって、それは後ほど「グルーミングの5つのプロセス」で解説しますが、加害者は「セルフグルーミング」と言って、子どもに性加害をすることを「子どものほうが誘惑してきた」というように自分の中で正当化していきます。実は、無意識のうちに自分自身を手懐けているのです。そのあたりをどう描くのかは大切なことなので、監修として気を付けて見ました。 ――本作内でも「グルーミングの5つのプロセス」について解説がありましたね。 斉藤:そうですね。グルーミングは1つ目としてターゲットの選択がされます。そして2つ目にターゲットとなった子どもに対して、自分だけが味方であるというように振る舞い、友人や家族から孤立させます。3つ目が子どもの話に共感、寄り添っていくことで信頼関係を強固にしていきます。すると、子どもは加害者に対して信頼感や恋愛感情を抱くようになります。4つ目としてマッサージやくすぐりなど、一見性的に見えない身体的接触を通して性的な刺激になれさせ、最終的には子どもが被害を口外しないように「愛している」というような言葉をかけて、共犯関係を作りそれを維持していくのです。 ――小春と塾講師の森の関係はまさにこの段階を踏んでいますね。作品では塾講師と生徒ということで、知り合いの関係からグルーミングが行われました。顔見知りではない人からグルーミング被害を受けるというのがイメージしづらいのですが、どんなものでしょうか? 斉藤:時々公園で会うどこに住んでいるかも知らないお兄さんやおじさん、学校の帰りにいきなり声をかけてきた人が加害者だった場合は顔見知りではない人に該当します。過去の事例では「虫がついているよ、取ってあげるからじっとしてて」と言われてどんどん服の中に手が入ってきて、プライベートゾーンに触られるということがありました。こういった短時間で子どもを手懐けて加害する場合、子どもは強い拒否反応を示すというよりはなんだかよくわからないけど何か身体に侵入された、という感覚や記憶が残る場合が多いです。 ――被害を受けないためにも、「プライベートゾーン(性に関わる身体的な場所)は人に見せない、触らせない」といった包括的性教育はやはり大切ですか? 斉藤:そうですね。それも繰り返し伝えていくことが大切だと思います。また被害を受けてしまった後に自分の中で抱え込まないために、「そういう時はあなたは悪くないから必ず言ってね」というのも繰り返して伝える必要があります。子どもは「親に嫌われたくない」という気持ちを持っている子がたくさんいるので、「どんなことでも、間違っていてもいいから教えてね」ということを繰り返し伝えておくのも大切です。 取材・文=原智香 斉藤章佳: 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。現在、西川口榎本クリニックの副院長。25年に渡り、アルコール依存症、ギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。専門は加害者臨床で、3500人以上の性犯罪者の再犯防止プログラムに携わる。著書に『「小児性愛」という病-それは、愛ではない』(ブックマン社)、『子どもへの性加害-性的グルーミングとは何か』(幻冬社新書)、『夫が痴漢で逮捕されました-性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)などがある。