ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の批判者が毒物を使って次々と暗殺されていることは、将来、北大西洋条約機構(NATO)との戦争に発展した場合、ロシア軍が化学兵器を大量に使用することを予兆している可能性がある。英ロンドン大学キングスカレッジでロシアの情報活動を専門とするエレナ・グロスフェルド博士が警告した。 英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、オランダの欧州5カ国の政府は、2年前にロシアの刑務所で死亡した同国の野党指導者アレクセイ・ナワリヌイが、化学兵器禁止条約で禁じられている毒物によって暗殺されたとの調査結果を共同で発表した。これは、ロシア政府が国際条約を軽視していることを浮き彫りにしている。 外国であれロシア国内であれ、プーチン大統領の敵対者に対する暗殺は「国家に代わって情報機関が行う国家統治の一形態だ」とグロスフェルド博士は指摘する。ロシアがウクライナ侵攻で禁止化学兵器を使用し、毒物を持った暗殺部隊を国境を越えて派遣する行為は、国連が支持する法の支配に基づく世界秩序への攻撃を示すものだ。同国が化学兵器禁止条約などの国際的な取り決めを無視する姿勢は、今後、西側諸国との全面戦争が起きた場合、さらに拡大する可能性がある。グロスフェルド博士は次のように指摘する。「NATOとの全面戦争に発展した場合、ロシアがこれまで繰り返し無視してきた条約を気にかけるとは思えない。同国による化学兵器の配備が爆発的に増加する恐れさえある」 グロスフェルド博士は自身の博士論文の中で、1917年のロシア革命後に始まり、ソビエト連邦の指導者ヨシフ・スターリン時代に急増し、その後プーチン政権下のロシアで再び増加している、国家による暗殺の100年にわたる軌跡をたどった。スターリンはかつて自身と権力を争ったボリシェビキの指導者レフ・トロツキーに対し、亡命先のメキシコで暗殺を企てた一方、国内では同志の革命家を次々と排除していった。 昨今、ロシア大統領府(クレムリン)から派遣された暗殺者が、民主主義を訴える政治活動家やジャーナリストといった「国家の敵」を狙う際に拳銃を使うことはあるものの、プーチン大統領に対する著名な批判者らに対しては、大統領に最も近い軍や治安部隊の幹部など、権力の中枢によって独占的に管理されている毒物が用いられることが多い。ソ連が化学兵器として開発した猛毒の神経剤ノビチョクや、原子炉内でしか生成できない放射性のポロニウムといった、国家が製造した特殊な毒物を使用することは、ロシアの反体制派や世界の首脳に向け、この恐怖の道具を作り上げたのはクレムリンだという強力なメッセージを送ることになる。 グロスフェルド博士は次のように説明する。「一般的に、毒殺は特に恐ろしく威圧的な暗殺の仕方だ。暗殺の方法が何であれ、ロシア人の大多数は抗議活動に参加することを恐れている。国内での弾圧はかなり効果的だが、もちろんそうした見せかけの演出も追い打ちをかけている」 プーチン政権下ではクレムリンの工作員による暗殺が急増しており、反体制派を標的にした殺害件数では、ソ連時代の歴代の全ての指導者を上回った。グロスフェルド博士によると、最も劇的な毒物は、英国に亡命した元ロシア情報機関員のアレクサンドル・リトビネンコやセルゲイ・スクリパリのような「裏切り者と見なされる者」のために用意されているという。リトビネンコは英ロンドンでポロニウムによって毒殺された。英政府は数年にわたる調査の末、クレムリンが仕組んだこの暗殺は、首謀者であるプーチン大統領が個人的に承認した可能性が高いと報告した。