トランプ大統領はなぜ狙われる?「レーガン暗殺未遂とは決定的に違う」南北戦争の再燃、アメリカの分断を国際政治学者が解説

3度目の暗殺未遂にあった直後でさえ、トランプ節は変わらない。記者の「今後、防弾チョッキを着用する?」との問いに、「9キロも太って見えるのは耐えられない」と答えた。 ホワイトハウスのレビット報道官は、「これは過去2年間で3度目のトランプ大統領に対する暗殺未遂事件だ。歴史上これほど頻繁に暗殺未遂に直面した大統領は他にいない」とコメントしている。 1度目の暗殺未遂事件が起きたのは2024年7月、大統領選の最中で、ペンシルベニア州バトラーでの選挙演説中だった。トランプ氏は銃撃を受け、銃弾は耳をかすめた。血を流しながらも、トランプ氏は拳を突き上げる。この映像は、支持者たちの間で、強いリーダーの象徴となった。 トーマス・クルック(20)容疑者は、州の有権者登録記録に共和党支持者として登録していた。さらに、リベラル派グループにも15ドルを寄付したという記録があった。また、少なくとも1年前から、地元の射撃クラブに所属していたという。クルック容疑者は、その場で射殺された。 その2カ月後、フロリダのトランプ氏がプレーしていたゴルフ場の茂みに、ライフル銃を持って潜んでいた男をシークレットサービスが発見し拘束。ライアン・ラウス被告は2026年2月、終身刑を言い渡された。 そして3度目は、ワシントンのホテルで行われた、記者協会主催の夕食会で起きた。そこには、トランプ氏をはじめ、バンス副大統領、ヘグセス国防長官など主要閣僚ら要人の姿があった。複数回の発砲音が聞こえ、会場は一時騒然となる。 銃声とともに、警備担当者がすぐに大統領の前に立ちふさがる。そして、トランプ大統領はステージ上でしゃがみこみ、周囲をガードされ、その場から離れた。この事件では、カリフォルニア州出身のコール・トーマス・アレン容疑者(31)が逮捕された。 トランプ氏が襲われたワシントンのヒルトンホテルは、ホワイトハウスからも近く、政治家、記者、外交関係者が集まる、アメリカ政治の表舞台。実は今から45年前にも、ここで事件が起きていた。 1981年3月30日。当時のロナルド・レーガン大統領は、このワシントン・ヒルトンでの演説を終え、ホテルを出ようとしていた。その直後、群衆の中から男が発砲。レーガン大統領は銃弾を受け、一時は命の危険にさらされた。レーガン氏が撃たれたあのホテルで、今度はトランプ氏が狙われた。 45年前の事件を知る、国際政治学者の舛添要一氏は、レーガン氏の暗殺未遂と今回の事件には、決定的な違いがあると見る。「レーガン氏の時は、今ほどアメリカが2つに分かれていなかった。今回のトランプ氏への暗殺未遂は、はるかに政治的な色が濃い」。レーガンを撃った男は、政治思想よりも、個人的な動機が強かったとされる。 一方、今回のアレン容疑者は、トランプ政権の高官を狙ったとされている。同じ大統領暗殺未遂でも、レーガンの時代とトランプの時代では、アメリカ社会の分断の深さが違う。トランプ氏は言う。「ホワイトハウス内に軍事的に極秘の宴会場があれば、このような事態は起きなかった」。 それにしてもなぜ、ここまで狙われるのか。記者からの「なぜあなたに繰り返し起こる?」との問いに、トランプ氏は「私は暗殺事件について勉強した。最も影響力のある人々、最も大きな成果を上げている人々、例えばリンカーン元大統領などが、このようなことを経験し、暗殺されている。しかし最も多くのことを成し遂げ、最大の影響力を持つ者こそが標的となる」と返した。 トランプ氏が口にした第16代アメリカ大統領、リンカーン。南北戦争で北軍を勝利に導き、国を統一し、奴隷解放宣言をしたことで知られる歴史上の偉人だ。南北戦争を乗り越え、アメリカは1つになるはずだった。しかし、リンカーンは暗殺された。そして、暗殺から8か月後には再び、白人至上主義を唱えるKKK(クー・クラックス・クラン)が結成された。 戦争は終わったが、分断は終わらなかった。かつてアメリカには、「丸太小屋からホワイトハウスへ」という言葉があり、努力すれば上へ行けることが、アメリカの「機会の平等」だった。 しかし1970年代以降、製造業は衰退し、格差は拡大した。「ラストベルト」錆びついた工業地帯では、雇用が失われ、地域社会が壊れ、人々は自分たちが見捨てられたと感じていた。格差、移民、銃、エリートへの怒り……。 その怒りをすくい上げたのがトランプ大統領だというのが、専門家たちの評価だ。「この国の忘れられた人々は、もうこれ以上忘れられることはない。皆があなたに耳を傾けている」(2017年1月の大統領就任演説でのトランプ氏発言)。 一方で反対派にとっては、民主主義や自由を脅かす存在にも見える。支持者には英雄、反対派には脅威。その極端な分断こそトランプ氏が狙われる背景だと、舛添氏は見る。「南北戦争の再燃。その象徴がトランプ大統領だ」。 そんな中、イラン側の核問題先送りの提案を拒否し、大規模な戦闘作戦の再開を計画しているとの報道も。また、トランプ大統領は自身のSNSに「良い人でいるのはもうやめだ」とも投稿している。 舛添氏が今回の事件の背景について解説する。「アメリカは完全に2つに分かれてしまって、敵と味方になっている。反トランプから見ると『こいつを抹消するしかない』という思いが高まっている。(暗殺が)成功すれば、反トランプの中では英雄になる。そういうことも計算して、覚悟の上だと思う」。 1981年にレーガン氏が銃撃された際、舛添氏は「ホワイトハウスの中で、大統領補佐官と2人で会議をしていた」と振り返る。「ヒルトンホテルは散歩がてらに行く距離(2km)だ。補佐官へのホットラインの電話が鳴り、『撃たれた』と。急きょ会議をやめた。最初は報道官しか撃たれていないという話だったが、すぐ後にレーガン氏まで撃たれたということだった。全く同じホテルで、同じことが起きた。1981年だが、どうしても2つを比べざるを得ない」。 しかしながら、今回と前回では「本質的には大きく違う」と指摘する。「今みたいに50:50で敵・味方が分かれておらず、当時のレーガン氏はものすごく人気があった。その前の大統領はジミー・カーター氏で、イランでイスラム革命が起きた時にテヘランにあるアメリカ大使館が占拠されて1年以上も人質を取られた。カーター氏はそれを救出に行くが、救出のヘリコプターが落ちて失敗するなど、見てられない状況だった」。 だが、「レーガン氏が出てきて選挙をやると、10倍くらいの差で大勝してしまう。その時に民主党の仲間に『どちらに入れたか』と聞くと、『私は民主党だが、今回は(共和党の)レーガンだ』。レーガンに民主党が(票を)入れる“レーガン・デモクラット”が起きた」という。 そして、「7割ぐらいの人が、民主党(支持者)を含めてレーガンに行っている。だが今は、トランプ氏の支持率を見ても、カマラ・ハリス氏とどっちが勝ったかわからないぐらいギリギリで50:50になっている。それだけの違いがあった」と説明した。 さらに、レーガン氏が銃撃された際のエピソードを明かす。「手術する医師らに向かって『今日、君たちが共和党員だとありがたいが、民主党だったな…』と言うと、病院のスタッフが『僕らは民主党だが、今日だけは共和党員になります』と言って手術した。それほど冗談が言えて、ゆとりがある社会がアメリカだった。今こうした冗談をトランプ氏が撃たれて言うはずがない。『敵はヤツらだ』と言うしかない」。 トランプ氏が狙われる背景には「南北戦争の再燃」との見方もある。「奴隷制度をめぐる南北戦争がある。あの時は完全に、北と南で『奴隷制賛成・反対』と戦争をやった。しかも、アメリカの戦争で、一番戦死者が多いのは、ベトナム戦争でもアフガニスタンでもなく南北戦争だ。その再燃のようなことが起きている感じがしてならない」。 (『ABEMA的ニュースショー』より)

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