プラハの名門少年少女合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」をめぐる実際の事件から着想を得た映画「Sbormistr」が、「ブロークン・ヴォイス」の邦題で9月19日公開となる。 2004年、少女たちへの性的虐待容疑で逮捕された合唱団の指導者ボフミル・コリーンスキー(1984年から2004年にかけて少なくとも49人が被害を受けていたことが明らかになった)。本作では合唱団のひとりの少女のまなざしを通して、「才能」「成功」そして「沈黙」がどのように結びつき歪められていくのかを静かに、しかし深い痛みを伴って描き出した作品だ。 カンティチェラ少女合唱団――「名門」と呼ばれ、入団希望が絶えないこの合唱団で、カロリーナはBチームに所属し、選抜チームの姉ルチエの背中を追っている。ある日、指揮者のヴィテクはBチームの練習に現れ、カロリーナを指名し、ひとりで歌い終えた彼女に「ありがとう、それでいい」とだけ伝え去っていく。 やがて海外ツアーを前に、選抜メンバーを決める雪山合宿が始まる。欠員の代役として呼ばれたカロリーナに、ヴィテクは楽譜を手渡し、「覚えなさい」と告げる。厳しい練習が行われる宿舎では、競争と嫉妬が渦巻き、ささやかな悪意が日常に紛れ込む。指揮者のヴィテクは時に優しく、時に距離を縮める。やがてカロリーナだけは少しずつ“特別”に扱われるようになり、ついに正式な団員に。喜びを隠せないカロリーナだったが、姉のルチエは言う。「才能で選ばれたとでも?」 夢の海外公演のため、ニューヨークへ渡る合唱団。開演前のヴィテクの激しい叱責を浴び、疲れと時差を引きずったまま臨んだ演奏で、カロリーナは集中を欠き歌声は乱れる。ヴィテクは彼女を呼び止め、帰国便に乗るようにと告げた。失意のなか、ホテルの部屋にも戻れずにいるカロリーナは、エレベーターに乗り合わせたヴィテクの部屋へ。目を覚ました彼女にヴィテクは静かに言う「君はキレイだ」。選ばれた旅は、早くも別の顔を見せはじめる――。 監督・脚本を手がけたのは、チェコ映画界の新鋭オンドジェイ・プロバズニーク。本作は彼にとって長編第2作目にあたる。物語の着想となったのは、日本でも公演を行い広く知られていたプラハの名門少年少女合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」をめぐる実際の事件だ。同合唱団の指導者ボフミル・コリーンスキーは2004年、少女たちへの性的虐待容疑で逮捕され、1984年から2004年にかけて少なくとも49人が被害を受けていたことが明らかになった。監督は、この物語を最初から「告発」や「断罪」として描くことをあえて選ばない。 カメラは一貫して、13歳のカロリーナの視点に寄り添い、彼女が“選ばれる”ことに感じる喜びや誇らしさを丁寧にすくい取っていく。観客は、少女の無自覚な感情と、周囲に漂い始める不穏な気配とのあいだに生じる微妙なズレを追体験することになる。そのズレを通して浮かび上がるのは、権力の濫用が特別な事件としてではなく、ごく日常的な関係の中に紛れ込み、見えなくなっていく過程だ。 初出演で主人公カロリーナを演じたカテジナ・ファルブロバーは、力強い演技を見せチェコアカデミー賞主演女優賞を受賞。撮影当時、彼女自身も役と同じ13歳であり、劇中で歌われる楽曲はすべて本人による歌唱だ。ファルブロバーは、キーン少年少女合唱団(Kühnův dětský sbor/日本では「チェコ少年少女合唱団」としても知られる)のメンバーでもあり、その確かな歌唱力が演技に強い説得力を与えている。 映画は9月19日からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。