ゆうきまさみの人気漫画『機動警察パトレイバー』の新作読切が、「週刊ビッグコミックスピリッツ」25号(小学館)に掲載され、話題になっている。今回の読切掲載は、新作アニメ『機動警察パトレイバー EZY File1』(監督:出渕裕)の劇場公開にあわせたもので、正式タイトルは『機動警察パトレイバー2026』。1994年の「週刊少年サンデー」(小学館)での連載終了以来、約32年ぶりの新作となった。 『機動警察パトレイバー』は、1988年、OVAの企画として始動した、メディアミックス作品の金字塔である。主人公の名は、泉野明(いずみ・のあ)。多発するレイバー(汎用人間型作業機械)犯罪に対応するため、警視庁に創設された特車二課第二小隊の隊員であり、イングラム(警察用レイバー)1号機の操縦者でもある(階級は巡査)。 原作は、「HEADGEAR(ヘッドギア)」。ゆうきまさみ(漫画)、出渕裕(メカニックデザイン)、高田明美(キャラクターデザイン)、伊藤和典(脚本)、押井守(監督)という異才5名からなるユニットであり、OVAの他、漫画版、テレビアニメ版、劇場版も制作され、いずれもヒットした(その他、伊藤和典・横手美智子による小説版、押井守監督による実写版などもある)。 なお、いまだにゆうきまさみの漫画作品を「原作」と書いている雑誌やネットの記事をときおり見かけることがあるのだが、それは間違いで、ゆうきの作品はあくまでも、OVAやテレビアニメなどと並行して作られた『パトレイバー』の「漫画版」である(世界線も他の媒体の作品とは微妙に異なる)。 ※以下、漫画版『機動警察パトレイバー』および『機動警察パトレイバー2026』の内容に触れています。未読の方はご注意ください。(筆者) ■『パトレイバー』の過去・現在・未来 さて、その漫画版がかつて「週刊少年サンデー」で連載されていた際には、「(連載が始まった1988年の)10年後の未来」を想定して描かれていたわけだが、今回の読切は、タイトル通り、2026年の“いま”を描いた物語だ。 当然、出てくるキャラクターたちもそのぶん歳を重ねているわけだが、注目すべきは、“それ”をたった1カットの絵で表現できるゆうきまさみの画力だろう。物語は、何か大きな見せ場があるというわけでもなく、わずか10ページで、元特車二課課長・福島隆浩の葬儀の様子が淡々と描かれているだけなのだが(にもかかわらず、「面白く読める」のはさすがという他ない)、序盤から中盤にかけて描かれているのは、後藤喜一(元特車二課第二小隊隊長)と、南雲しのぶ(特車二課第一小隊隊長兼二課課長代理)の会話劇である。 この場面における、後藤と南雲の「歳を重ねた顔」の描写が本当に素晴らしい。いささか大げさにいわせてもらえれば、セリフではなく絵だけで、我々読者の知らないキャラクターたちの「それまでの人生」を想像することができるのである。 また、本作は、単なる漫画版の後日譚ではなく、現在公開中の『機動警察パトレイバー EZY』にも接続する、ファンには嬉しい仕掛けもある。残念ながら泉野明は登場しないのだが、その代わり(?)、『EZY』で主人公を務めている久我十和(くが・とわ)の入隊前(学生時代)の姿が描かれているのだ。過去と現在、そして、未来(『EZY』の舞台は2032年の東京)をつなぐ、素晴らしい「新作」だといえよう。 ■女性が主人公の少年漫画 余談だが、女性が主人公である漫画版『機動警察パトレイバー』は、「少年漫画」としては少々異質な作品だったといっていい。あらためていうまでもなく、たいていの少年漫画の主人公は、読者が共感できる同世代の「少年」か、憧れを抱くことのできるやや年上の「青年」だからだ。 だが、80年代の「少年サンデー」は、『ただいま授業中!』(岡崎つぐお)、『舞』(工藤かずや・池上遼一)、『ブリザード・プリンセス』(鈴宮和由)など、「女性が主人公」の漫画が少なからず掲載されていた(かつ、人気を博していた)。また、『うる星やつら』(高橋留美子)、『タッチ』(あだち充)、『さよなら三角』(原秀則)なども、どちらかといえば、本来の主人公(いずれも男子高校生)よりも、ヒロインの魅力を前面に押し出していた作品といえるだろう(たとえば『うる星やつら』の主人公を、諸星あたるではなく、ラムだと思っている読者はことのほか多いのではないだろうか)。 そういう意味では、かつて『究極超人あ~る』(1985年~1987年)でゆうきまさみをメジャーな作家にしたというつながりはあったにせよ、当時の「少年サンデー」こそ、本作を載せるに最もふさわしい雑誌だったといえるかもしれない(さらにいえば、『機動警察パトレイバー』は、『ただいま授業中!』とともに「働く女性」が主人公の「職業物」であり、その点でも、少年漫画としては少々異質な作品だった)。 いずれにせよ、「働く女性」、そして、巨大ロボット(レイバー)を操るポジティヴなヒロインの成長を描いた、ゆうきまさみの漫画版に勇気をもらった少年読者は少なくないだろう。 ■ヒロインの成長を描いた物語 なお、文字数の関係で、詳しく書くことはできないが、漫画版の『パトレイバー』で描かれているのは、「大人の論理」と「子供の論理」の二項対立である。 「大人の論理」を象徴するのが、前述の後藤喜一であり、「子供の論理」を象徴するのが、漫画版の黒幕的存在・内海(リチャード・王)である(後者は、最初から最後まで“遊び”の感覚でレイバー犯罪を犯し続ける)。 ちなみに、当時の近未来SFといえば、どちらかといえば、反体制の側から体制を討つような物語が多かったかと思うが(大友克洋『AKIRA』がその筆頭)、本作は、(士郎正宗『攻殻機動隊』の第1作などとともに)体制側にいるキャラクターが主人公の物語だった。つまり、主人公である泉野明は、一応は体制側に属しているものの、物語の序盤においては、いまだ実戦経験の浅い新入隊員であるためか、「イングラムが好き」という想いが先走っているためか、大人と子供の狭間にいる曖昧な存在であった。 そんな彼女が、数々の戦いを通じて、最後には「いい勝負じゃだめだ」という考え(「ぶざまな姿を見せてもいいから、犯人を逮捕し、市民を守ることが警官の務め」という考え)にいたるまでになる。子供から大人へ――そうした主人公の「成長」が、漫画版『パトレイバー』の最大の魅力だったといっても過言ではあるまい。 今回、物語の時代設定と主要キャラを一新し、『EZY』というタイトルのもとに新たに動き出した『機動警察パトレイバー』(脚本家の伊藤和典によると、「EZY」とは、コンピュータのデータ単位であるエクサ、ゼタ、ヨタの頭文字を組み合わせたもので、「まだ来ていない未来」を意味しているとのこと)。もちろん今後の劇場公開も楽しみだが(「File2」は2026年8月、「File3」は2027年3月に公開予定)、『EZY』の新ヒロイン・久我十和を主人公にしたゆうきまさみによる「新作長編漫画」も読んでみたいと思うのは、私だけではないだろう。