『マジカル・シークレット・ツアー』は“爽快&痛快”!?ラストの選択と覚悟にLiLiCoが大共感

主婦たちが金塊を密輸!? 「まさか、そんな大それたことできるわけない」と侮ってはいけない。驚くことなかれ、2017年に金を密輸した主婦が空港で逮捕されたという、事件は実際に起きたのだ。このニュースに着想を得て、『ミセス・ノイズィ』(20)、『佐藤さんと佐藤さん』(25)の天野千尋監督がオリジナルストーリーで紡ぎだしたのが、映画『マジカル・シークレット・ツアー』(6月19日公開)だ。 元々、密輸事件のドキュメンタリーを観るのが大好きだというLiLiCo。「そんな事件、世界では昔からゴロゴロしていますよ。悪いことをするようにはとても見えない人が手を染めているケースが多いのがおもしろい」と語る彼女が、その鋭い観察眼をもってしても、「すべてが完璧!」と太鼓判を押す本作。そこで今回、この映画の“完璧たるゆえん”を、いろいろな角度から解き明かしてもらった。 ■「極貧生活を送った経験のある私には、あのバイトに飛びついた気持ちがわかる」 開口一番、「いや、もう最高!」とLiLiCoが感嘆の声を上げたのは、主演の有村架純について。有村が演じるのは、主人公の和歌子。2人の幼い子どもを抱えた平凡な主婦のはずが、会社の金を横領した夫が解雇され、多額の借金を抱えていたことが発覚。しかも当の本人は倒れて入院するという、まさに青天の霹靂の連続で、一瞬にして地獄に突き落とされてしまう。返済のために行きついたのは、シンガポールでの闇バイト、“金の密輸”だった。「これ、もう完全な当たり役ですよね!あんなに暴走する有村さんを初めて見て(笑)、それがとっても新鮮だった。幼子を抱えた母親という役が、滅茶苦茶ハマっていましたから!普通は赤ちゃんって、(撮影現場に来ている)本当のお母さんのほうをどうしても見てしまうもの。でもこの子が天才なのか、有村さんが関係性を見事に作り上げたのか、赤ちゃんもじっとしていられない幼児も、本物の親子にしか見えなかった」と興奮気味に語る。 「お金もない、仕事もない、頼れる家族もいないとなったら、危ないと知りつつも怪しいバイトに手を出す気持ち、すごくわかる。もちろん犯罪は絶対にダメですよ!でも、和歌子には選択肢がないんですもの。5年も極貧生活を送った経験のある私には、あのバイトに飛びついた気持ちがわかる。いや、わからないなんて人は、生まれてこの方、苦労したことがない人たちなんじゃないかな。『子どもを連れて来てもいい』なんて条件のシンガポール行きのバイトがあったら、そりゃ行きますよね。それくらい彼女は必死なんだから!」と、冒頭からすっかり物語に入り込んだ様子だ。 和歌子は幼子を連れてシンガポールに向かい、黒木華演じる大学の研究員の清恵、南沙良演じる未婚で妊娠中の麻由と出会うことに。ここからいよいよ物語は佳境へと入っていく。LiLiCoがなによりも本作で気に入っているのは、「和歌子が現地で仲間を見つけたということ。それが本作で一番大事なことですよね。清恵を演じる黒木さんも、麻由を演じる南さんも、みんなもう本当に完璧!」と、キャスティングの妙に脱帽する。 「研究者という真面目で地味な表の顔と、そこからは想像もできないような自由で好きなことに突っ走ってしまう裏の顔を持つ清恵は、『私の知り合いにもいるわ、こういう人!』と思い出したほど絶妙にリアル。黒木さんって、どんな役をやっても本当にうまいですよね。南沙良ちゃんも、麻由役が彼女だと気づかないほどの化けっぷりで別格だった!彼女も誰にでもなれる俳優さん」と手放しで称賛する。 闇バイト先という特殊な環境で出会った3人は、最初こそ互いに探り合いながらも、それぞれの境遇や置かれた状況を知るうちに、少しずつ連帯感を強めていく。「3人共にどん底に落ちてしまっているけれど、そんな彼女たちの友情や仲間意識を見るにつけ、観ているこっちまで支えてあげたい気持ちになってしまう」とLiLiCo。 小ぶりな“金塊”を日本に運ぶという初めての大仕事に、3人は半信半疑でハラハラと緊張しながらも、割とすんなり成功させてしまう。それに味を占めた彼女たちは、なんと斡旋業者を通さずに、自分たちで密輸をしようと画策し始める。そんな3人の姿に、LiLiCoは自分自身を重ねる部分もあったという。「途中で、『誰にも頼らずに自分たちでやる』と決めた時、彼女たちは一段階、強くなっているんですよね。私も仕事でマネージャーを付けず、自分のことは誰にも頼らずにすべてをやっているので、『結局、それが一番強いんだな』って観ながら実感しました」と語る。 ■「もうお芝居じゃない。ちゃんとそこで生きているキャラクターになっていた」 一方で、「麻由のお腹がどんどん大きくなっていくことで、視覚的にも時間の経過を感じさせる演出がうまかったなぁ。最初のころはたどたどしかったのに、指でお金を数える技術もどんどんうまくなっていって(笑)。人間、やっぱりお金は欲しいものだし、“簡単なバイトで稼ぐ”感覚にはすぐ慣れてしまうものなんですよね」と苦笑いを漏らす。 さらに、彼女たちに共感したポイントとして、「3人とも母親との関係がうまくいってないんです。でも、そういう環境に置かれた人のほうが、人として強くなると思うんですよ」。特に、「和歌子が実家に『お金を貸してください』って言いに行くシーンで、頼むよりも前に母親や兄たちが、『こっちもいっぱいいっぱいなんだ!』と騒ぎ始めて、和歌子はなにも言い出せなくなってしまう。一番近いはずの家族が、一番遠い存在に感じられる、あのシーンで見せた和歌子の切ない表情を、有村さんが本当にうまく表現していて、とても印象的だった」と振り返る。 彼女たちを取り巻く、登場人物たちの描写も秀逸だ。LiLiCoが目を付けたのは、闇バイトを現地で仕切る男たちの“本当に居そうな”佇まい。「和歌子たちを軟禁しているホテルで指示を出す男も、怪しげな店で金塊を売る男も、あの人たち全員うまい(笑)。特に、私は“ミント男”って呼んでいるんだけど、常にミント系のタブレットを齧りながら『はい、質問です。これは観光ツアーですか!?』と、すごく面倒臭そうに集まったバイト要員に説明している姿がいいのよ(笑)。あの、“何百回も同じことを繰り返し言ってきたんだろうな”と感じさせる、惰性で仕事をこなしている感が、もうお芝居じゃない。ちゃんとそこで生きているキャラクターになっていて。その周りに座っているヤバそうな男たちのリアリティも完璧だった」と、隅々に至るまでの丁寧な作品作りに目を向ける。 ■「シンガポールが持つエネルギーが手に取るように伝わってくる。これ以上ない説得力を感じた」 加えて、「それを、ちゃんとシンガポールに行って撮影したのも大きいですよね。やっぱり映り込む空気がまったく違うから。いかにもアジアンな湿気を含んだ空気、ごちゃごちゃした街の裏通りの猥雑感をはじめ、街の匂いがリアルに感じられる。実際に香港やシンガポールに金が集まっているという、あの場所が持つエネルギーも手に取るように伝わってきて。なにも知らない主婦たちが『お金のために金塊を運んじゃう』舞台として、これ以上ない説得力を感じました」と、本作の屋台骨を支える優れたポイントを挙げてくれた。 そして話題は、主人公3人をどん底に突き落とした男たちへ。「もう“クズ男選手権”かってくらい、とんでもない男ばっかり!特に塩野瑛久さんが演じる和歌子の旦那の高志なんか、早くからクズ全開(笑)。借金まみれで口座に23円しか残ってないくせに、『俺が支えるよ』とか説教を始めて。『あんたのせいだろ!』って思わず心の中で突っ込んじゃった(笑)」と豪快に笑う。 一方で、高志の上司役を演じる斎藤工の演技についても絶賛する。「あの程よい距離感が本当に絶妙だった。友人で部下という立場の高志に横領された彼が、“もしかしたら返済してもらって、また友達に戻れるかもしれない”というラインを絶妙に保ちながら呆れてみせる加減がさすがでした!」 ■「本作が痛快なのは、やっぱり彼女たちの選択と覚悟。ある種のガールズ・パワー映画」 そして「本作が痛快なのは、やっぱり後半の彼女たちの選択と覚悟ですよね」と、多くの観客が最後に胸に抱く、感覚の正体を見極める。「犯罪に手を染めたわけだし、自分の人生に自分で傷をつけてしまったわけでもある。けれど、彼女たちは逃げずに、ちゃんと自分たちがしたことを最後に引き受けようとする。その覚悟があるからこそ、観終わったあとに爽快感が残るんですよね。ある種のガールズ・パワー映画。これはやっぱり、天野千尋監督だからこそ描き得た側面だと思います」とうなずく。 同時に、作品の根底にある社会へのメッセージ性にも目を向けた。「この社会がどれだけ困窮した女性に冷たいのか、ということもよくわかりますよね。現実を突きつけられながらも、女性たちが強くなっていく姿を見せつけてくれるの。和歌子をはじめとする彼女たちは、ここまで最悪の経験をしたわけだから、もはや社会の目なんかどうでもよくなっている。その成長する姿にも、この作品のおもしろさをすごく感じました」と分析してみせた。 もちろん、クライム・サスペンスとしての魅力にも言及しておかねばならない。LiLiCoは、「一番のキーワードは“恐竜”。詳しくは言いませんが、あのシーンは観ていてシワが3本増えました(笑)。あと、金塊をポンっとトートバッグに入れていたり、安易に人を信用しちゃったり、突っ込みどころも満載で、意外なところでフェイントをかけてくるんですよ。それがどんなふうに展開していくのかは、観てのお楽しみ」とニンマリ笑う。 ■「他人の目を気にしたり、他人が決めた人生を生きてしまっているすべての人に対するメッセージが感じられる」 最後に、本作を楽しみにしている観客に向けて熱いメッセージをくれた。「ラストで“人生は自分で作るものだ”と知ることになるんだけれど、これって他人の目を気にしたり、他人が決めた人生を生きてしまっている現代のすべての人に対するメッセージだと思いました。彼女たち3人の連帯が崩れそうになったり、人生に傷をつけてしまったりしたけれど、でも『あの時は楽しかった。お互いを信じ合える仲間がいた』と実感しているだろう、清々しさがある。これからの人生を誰と、あるいは一人で、どう歩んでいくかを決めた覚悟が感じられて、とても爽快な後味。だからジメジメせず、『結局は、お金よりなにより“人”なんだよね』って深く納得させてくれる」とまとめた。 さらに、「普段は私、一人で映画を観るのが好きなんですけど」と前置きしつつ、「これは何人かで観に行って、観たあとに『あなたならあの極限状態でシンガポール行く!?』と、熱く語り合ってほしいな。そうしたくなるパワーが本作にはある、ぜひ観てほしいですね!」とダメ押しした。 取材・文/折田千鶴子

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加