社説:暮れゆく一年 舵なき流動化確かさ探って

「トクリュウ」と呼ばれる匿名・流動型犯罪は、続発した「闇バイト」による強盗事件を特徴付けた新語である。 交流サイト(SNS)の高額求人で集められた見知らぬ若者らが、指図のまま民家を襲撃し、全国を震撼(しんかん」)させた。 首謀者も、離合集散する実行役も、えたいが定かでない不気味さだ。 社会のあちこちで舵(かじ)やブレーキが外れ落ち、先の見えない不安が漂う中、一年が暮れる。 国民の政治不信は底が割れたままだ。自民党裏金事件は逮捕者を含め未曽有の国会議員90人近くに及んだ。「抜け穴」温存の法改正強行に批判はやまず、岸田文雄政権は3年で退いた。 刷新感を頼みに党総裁選を制し、衆院選に打って出た石破茂首相だが、与党過半数割れの大敗。12年間の強権的な「自民1強」から、有権者は「与野党伯仲」国会による熟議を求めた。 臨時国会で使途非公開の政策活動費は廃止としたが、焦点の企業・団体献金禁止は自民の抵抗で議論を持ち越した。信頼回復に足る抜本改革を決断できるか、首相の指導力が試される。 夏の東京都知事選以降、SNSの影響力が注目される一方、偽情報や中傷も横行。脱法的なライバル候補妨害、ポスター掲示板「転売」など、揺さぶられた民主主義の土台が問われる。 暮らしを災害や物価高が直撃した。元日の能登半島地震は9月豪雨が追い打ちとなり、交通寸断による救援、復旧の遅れ、避難者の相次ぐ「関連死」で犠牲者は計500人を超える。抱える脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。 初の南海トラフ地震情報への対応はばらついた。リスク周知と備えの再点検が欠かせない。 値上げラッシュは食品1万2千品目超などで続いた。春闘は大企業平均5%台の賃上げで、6月に実質賃金は27カ月ぶりにプラス転換したが、コメの高値やエネルギー高を賄えず、8月以降は再び家計が細っている。 全労働者の最低賃金改定は、全国平均51円増と過去最大だった。人件費増を価格転嫁しにくい中小企業を後押ししたい。 日銀は特異な大規模金融緩和を見直し、マイナス金利解除と利上げで17年ぶりに「金利のある世界」に。住宅ローンなど利率上昇の影響と、市場をゆがめた副作用の検証が要る。国の借金利払いもかさみ、緩んだ財政規律の正常化は急務だ。 京都市で28年ぶりに市役所外から松井孝治市長が誕生。北陸新幹線延伸は、京都で懸念が高まり、来年度着工が見送られた。大津市の保護司殺害で、安全策や制度見直しが議論を呼んだ。 ウクライナや中東の戦禍が続く中、核廃絶を訴える日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受けた。核は絶対悪と広め、禁止条約へつなげた確かな歩みは、大国による力の論理の危うさと、克服に向けた希望を示していよう。

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