バイナンス、ロシア当局に顧客情報提供。ウクライナ軍への寄付巡る訴追の証拠に

世界最大手の暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)が昨年、ウクライナ支援の募金活動への暗号資産による寄付に関する情報をロシア当局に提供し、その情報がロシア人IT技術者をテロ資金供与罪で訴追するための証拠に使われたことが、法執行機関の文書で明らかになった。「ロイター」が8月17日に報じた。 バイナンスのような企業が、事業を展開する国の法執行機関から適法な顧客情報の開示要請を受けた際に応じること自体は一般的だ。しかし、世界最大の暗号資産取引所であるバイナンスは2023年、ロシアから完全撤退したと発表していた。 多くのロシア国民はここ数年、ロシア政府が後に過激主義またはテロに当たると認定した運動や活動を支援するため、こうした取引所を利用してきた。関連事件を追跡する人権活動家によると、こうした寄付をした数十人がロシアで訴追され、有罪判決を受けている。ロイターは正確な人数を確認できなかった。 重大犯罪を扱うロシア連邦捜査委員会(Investigative Committee)は2025年10月、同年9月に拘束されたIT技術者ユーリ・ベレンキー(Yuri Belenkiy)氏が、ウクライナ軍と、時期によって「アゾフ旅団(Azov Brigade)」または「アゾフ連隊(Azov Regiment)」と呼ばれてきた関連組織に、700ドル(約11万2,000円)超を送金したと主張した。ロシア政府は同組織をテロ組織に指定している。 暗号資産規制に関する助言を行う法律事務所ステラ・コンサルティング(Stellar Consulting)の創業者マイク・ビストロフ(Mike Bystrov)氏によると、バイナンスはロシアから撤退していたため、データを提供する義務はなく、むしろEUのデータ保護法に基づき、データ提供を禁じられていた可能性もあるという。 バイナンスはこの見解に異議を唱えている。 バイナンスの広報担当者は電子メールで、「バイナンスは、いかなる法域の法律も制定・執行せず、訴追内容を決定することも、政府が法的手続きで情報をどう利用するかを決めることもない」と説明した。 さらに「他のグローバル金融機関と同様、適用される法的要件、プライバシー保護要件、規制要件に従い、世界各地の法執行機関からの適法な情報提供要請に協力している。これらの判断はすべて関係当局のみに委ねられている」と述べた。 ロイターが今回の事件についてコメントを求めたところ、EUが設置した欧州データ保護会議(European Data Protection Board:EDPB)は、データ保護法の執行は欧州各国の関係当局が担っているとして、コメントを控えた。 また、ベレンキー氏が居住者となっているブルガリアの個人情報保護委員会(Commission for Personal Data Protection)は、同氏の事件でデータ保護法に違反していたかとのロイターの質問に回答しなかった。 ロイターが確認した文書はベレンキー氏の事件に関するものに限られる。暗号資産で寄付したほかの人物がロシア当局の捜査対象になったか、バイナンスがほかのユーザーを特定してロシア当局に伝えたかは確認できなかった。 ウクライナ国家親衛隊の「第1軍団アゾフ(First Corps Azov)」は、寄付者の氏名を開示していないと述べた。ウクライナ軍とウクライナ大統領府は、コメント要請に回答しなかった。ロシア大統領府とロシア連邦捜査委員会も回答しなかった。 ロシアのパスポートとブルガリアの居住許可証を持つベレンキー氏は現在、裁判を待ちながらロシアの刑務所に収容されている。49歳の同氏の弁護士は、事件や捜査におけるバイナンスの役割に関するロイターの質問に回答しなかった。 ロイターが確認した法執行機関の文書は、ロシアで政治的な事件により訴追されている人々へ法的支援を提供する非政府組織(NGO)ファースト・デパートメント(The First Department)が入手した。 同団体によると、文書はベレンキー氏の親族から提供されたもので、同氏が訴追される前に国家捜査当局が集めた証拠が記載されているという。ロイターはこの説明を独自に確認できなかった。 ロイターは以前、バイナンスの地域責任者が2021年、アレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏へのビットコインによる寄付を行った顧客の特定に協力を求めていたロシアの金融監視当局者と面会したと報じている。 当時バイナンスは、ロシア政権に反対する活動家だったナワリヌイ氏に関し、ロシア当局から連絡を受けたことは一度もないとロイターに説明した。ナワリヌイ氏は2024年、北極圏の刑務所で死亡した。 ロシアが2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始し、欧米諸国が対ロシア制裁を科した後、バイナンスはロシア事業全体を売却すると発表した。 同社は2023年9月、ロシアで事業を続けることは自社のコンプライアンス戦略と相いれないとして、ロシアから完全撤退すると説明した。また、売却後に収益を分配する取り決めや、事業を買い戻す権利もないとしていた。 ファースト・デパートメント代表のドミトリー・ザイルベク(Dmitry Zair-Bek)氏はロイターに、「EU居住者は、ロシア撤退を表明した暗号資産大手が、実際には同国の法執行機関との連絡経路を維持しているとは、まず想像しないだろう」と述べた。 さらに「まして、同じ暗号資産大手が、政治的弾圧に携わる刑事や捜査官から要請を受けるや否や、自分の情報を差し出すなど、悪夢の中ですら想像しないはずだ」と語った。 ブルガリア外務省はコメントを控えた。 ●欧州のデータ保護法 暗号資産規制に詳しいビストロフ氏によると、ベレンキー氏がEU居住者としてバイナンスに登録されていた場合、EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)の適用対象となる。同氏はブルガリアの居住許可を持っているため、その可能性があるという。 その場合、裁判所命令を得て極めて厳格な要件に従わない限り、バイナンスが同氏の情報を開示することは禁じられるとビストロフ氏は説明した。 同氏はさらに、「EUおよびGDPRの下で、ロシアは個人データの保護水準が十分な国とはみなされていない。このため、ロシアへ個人データを送ることは極めて慎重な取り扱いを要する」と指摘した。 ビストロフ氏は以前、2021年1月にバイナンスのメインサイトがロシア国内でアクセス禁止措置を受けた際、同社を代理して異議申し立てを成功させた法務チームの一員だった。 バイナンスは、ベレンキー氏のデータ提供がGDPR違反に当たるかについてコメントしなかった。ロイターは、同氏がEUの顧客としてバイナンスに登録されていたか確認できなかった。 同氏がブルガリア居住者としてバイナンスに登録され、GDPRの適用対象となっていたかとの質問に、ベレンキー氏の弁護士は回答しなかった。 ロイターが確認した文書によると、ロシアの法執行当局はバイナンスにベレンキー氏の取引履歴を求め、バイナンスはウクライナの組織への暗号資産送金を示す詳細情報を提供した。 文書の一つによると、バイナンスを通じたベレンキー氏の取引情報は、同氏に対する事件の証拠に組み込まれた。ロシア連邦検事総長府へ送付された事件の暫定概要書は、これらの取引をテロ資金供与容疑の根拠として挙げている。 バイナンスはベレンキー氏の事件の詳細について、「機密扱いとなる個別の法執行機関からの要請や、個々の事件についてはコメントしない」として、回答を控えた。 ロシア連邦捜査委員会は2025年10月13日付の声明で、ベレンキー氏が2023年1月から2024年3月にかけ、亡命中のロシア政権批判者でウクライナを支持するアルカディ・バブチェンコ(Arkady Babchenko)氏によるオンライン上の呼びかけに応じ、暗号資産を送金したと主張した。 ロイターは、同期間にバブチェンコ氏のテレグラム(Telegram)チャンネルへ投稿された、寄付先の暗号資産ウォレットを記載した複数の書き込みを確認した。同氏は、集めた資金をロシア軍と戦うウクライナ兵のための医療機器購入に使用すると説明していた。 バブチェンコ氏はロイターの取材に対し、逮捕される危険があるため、ロシア国内にいる人々にはウクライナ軍の募金活動へ資金を送らないよう呼びかけていたと説明した。 また、暗号資産取引所の行為について自分に責任はないとしたうえで、取引所がロシア人顧客による寄付の詳細をロシアの法執行当局と共有することは「不適切だ」と述べた。 文書の一つによると、ロシア連邦捜査委員会は、バブチェンコ氏が寄付を募っていたウォレットへ暗号資産を送ったほかの人物の身元についても、バイナンスに開示を求めた。文書には、この要請に対する回答結果は記載されていなかった。 文書によると、ロシアの捜査当局がバイナンスに協力を求めた後、当局は「[email protected]」というメールアドレスから2通の返信を受け取った。 ロイターはバイナンスのウェブサイト上で、ロシアとベラルーシの法執行機関に対し、同社への連絡にこのメールアドレスを使用するよう案内する投稿を確認した。 返信にはデータファイルが含まれており、バブチェンコ氏が掲載したウォレットへの送金を開始した顧客がベレンキー氏であることを示す確認情報のほか、同氏の生年月日、住所、電話番号、パスポート番号、ロシアのパスポートの写し、ブルガリアの居住許可証の写しが含まれていた。 ※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。 Exclusive-Binance gave Moscow client details used to charge Russian over Ukraine donations, documents show (Additional reporting by Dan Peleschuk in KYIV and Tom Wilson in LONDON ; Writing by Christian Lowe; Editing by Susan Fenton and Alexander Smith)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加