栗田シメイ 犯罪組織から見えてきた、罪の愚かさと重さ【著者に聞く】

――人気マンガの主人公を名乗った犯罪組織の一部始終を、本書では克明に記しています。執筆の経緯は? 2022年、彼らは京都と東京・稲城から始まる広域強盗事件を起こしました。当時の報道を見ていて、「今までの犯罪のやり方とは毛色が違う」という印象を持ちました。従来の暴力団型犯罪ではなく、極めて模倣性が高く、ある程度頭の切れる人間が組織を作れば、同様の事件が起きてしまう—。これはひどい社会問題になると感じました。 その後、伝説のかけ子を自称する山田李沙(りさ)の公判を聞いたり、手紙のやり取りをしたりする中で、犯罪防止に繋がるという「意義」に加え、奇怪なエピソードから私自身がもっと知りたいと思うようになりました。 彼らはとてもシステマチックに組織運営を行っている一方で、動機や考え方の部分は、遊びたい、金が欲しい、認められたいなど、極めてシンプルだった。また幹部たちはマインドコントロール的に、相手の心の機微を熟知した上で、末端の人間との接し方を変えたりしています。彼らの内部を取材していくと、人間の性(さが)のようなものがとてもよく見えてくるのです。 ――山田や、幹部の小島智信(とものぶ)の他、取材先は非常に多岐にわたっています。最も大変だったのは? 面会や手紙のやり取りはかなりの回数にのぼったので、物理的に大変だったのは当人たちへの取材ですね。一方、詐欺犯である彼らの証言をストレートに受け取るわけにはいきませんから、故郷やフィリピンなど、「地回り」取材にも時間をかけました。ボスと言われていた渡邉優樹やルフィを名乗った今村磨人(きよと)は接見禁止となっているので直接の面会は叶いませんでしたが、本に登場しないものも含め、周辺取材は現状での手を尽くしたつもりです。 また、多くの証言や事実関係を時系列に沿ってまとめているので、その整理は大変でした。校閲も苦労したみたいですね。(笑) ――詐欺集団はやがて、崩壊と逮捕に至ります。詳細は本書に委ねますが、その過程はあまりにお粗末というか……。 最後は……本当にあんな感じなんですよね。「えっ!?」と思うくらい杜撰で似たような失敗を繰り返していく。後半はあえて事件ノンフィクションの型から外れ、映像的な書き方をしました。 ――なぜでしょうか? 私はこの本を、特に若い人に読んでほしいと思っているんです。「闇バイト」という軽い響きから、犯罪に手をそめる若者が増えていますよね。しかし詐欺組織の実態を知れば、いかに「割に合わない」ことであるかがわかると思います。初めから捨て駒の予定だったりと、その扱いはゴミより軽い。 また、例えば誰と誰がセックスしたとか、事件モノでプライベートなことを書きすぎる点には異論もあると思うのですが、今回はディテールを細かく書くことを意識しました。それも、広く読まれてほしいからです。 こうした犯罪で逮捕された若者がよく、リーダーに心酔していたり、「自分は信頼されていた」と言ったりするんですけど、それはやっぱり、彼らが人の心を操るのが上手いから。彼らが詐欺師だからです。その集団の中で、彼らがどんな時にどう考え、どう行動していたか。それを知るだけでも、一歩引いて見ることができると思うのです。 ――ところで、栗田さんはこれまでの著書で、まったく異なる題材を書いてきています。意図や展望は? 僕が飽き性だから、というのがまずあります(笑)。でもこれは大事なことで、心から興味を持って迫れていないと、読者にはわかってしまうでしょう。これまでのテーマはどれも、一つのミクロな事象から、広く社会が見えてくるようなところがあって、それが自分に合っているのかも知れません。 また、自分は後藤正治さんの人物ノンフィクションが大好きだったので、一人の人物を徹底的に書くようなものにも、挑戦してみたいです。後藤さんのようなレベルまで描ければ理想なのですが、まだ努力が足りませんね。 (『中央公論』2026年9月号より) 栗田シメイ〔くりたしめい〕 1987年兵庫県生まれ。広告代理店勤務、週刊誌記者を経てノンフィクションライターへ。著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』がある。

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