犯罪被害者支援をテーマに描くフジテレビドラマ「さよならノワール」(火曜後9・00)が注目を集めている。警察組織に実在する犯罪被害者支援室をモチーフに、元刑事の主人公(小池栄子)と心理学者(北香那)が、犯罪被害者や遺族らの人生の再生を支援していく。犯人逮捕や事件解決をメインに描く王道の警察ドラマとは一線を画し、被害者支援の意義や存在をお茶の間に伝えている。テレビ関係者は「視聴率は振るわないが、傑作という声も少なくない」と話す。 評価される理由の一つは、社会的なテーマへの挑戦だ。 日本では2005年に犯罪被害者等基本法が施行。警察庁に加えて法務省や厚生労働省、民間支援団体などが連携して取り組んでいる。だが、プロデュースの狩野雄太氏がドラマ公式サイトで「海外に比べて被害者支援について後れを取ってきた歴史があったことを知りました」とコメントしているように、被害者支援が浸透していないことが大きな社会課題となっている。 一方、主に法務省が管轄し、犯罪や非行をした人への矯正・更生保護は制度として、より認知されている。一度道を踏み出した人の再犯を防止し、やり直しができる環境作りとして欠かせない国策だ。令和7年版犯罪白書によると、再犯率は46%で、この数字をいかに下げるかが使命となっている。再犯防止のプログラムにも被害者の視点を取り入れた教育などがあり、被害者支援とは表裏一体のものでもある。だが、この点もあまり知られていないのが現状だ。 そして、省関係者によると、矯正・更生保護に対して「加害者の人権ばかり手厚く保護し過ぎでは」との指摘を受けることも昔からあるという。その意見の奥底には「被害者の方こそしっかりケアすべき」という思いがあるだろう。この考えが大きく表面化したのが、8月に発生した、ネットフリックスで配信中の恋愛リアリティー番組「ラヴ上等シーズン2」とのコラボポスター騒動だった。 番組は“社会のはみ出し者”として生きてきた男女による恋愛リアリティー。法務省は更生保護の取り組みを知ってもらうことを意図してタイアップしていた。だが、出演者が「人に火をつけた」などの過去の犯罪行為を話す場面が放送されると、SNS上で批判の声が相次いだ。 そして、法務省はタイアップ中止の判断を下した。声明では「犯罪被害に遭われた方々から見れば、不快感や割り切れない思いを抱かれるのではないかといった御懸念や御批判を多くいただきました」と記した。被害者支援にも携わる立場の法務省が、被害者への配慮が足りなかったと言われても仕方がない状況が起きた。 一連の騒動を受け、犯罪における「被害者支援」「被害者の心情」に視線を向けることの必要性が説かれるようになっただけに、「さよならノワール」の描く世界観やメッセージ性がより際立つものになっている。かねてドラマなどの映像作品で題材となった職業やテーマがブームや社会現象となることはしばしばあり、テレビ関係者は「それがエンターテインメントの力でもあり、役割でもある」と話す。一方、「影響力があるだけに、一歩間違えれば炎上などのリスクも当然抱えている」と指摘。まさに法務省と「ラヴ上等」のコラボがその一例となった。 被害者支援は題材としてあまり知られていないことも事実だ。だが、同関係者は「認知度が低いテーマを伝えることは確かに難しい。だからこそ意義があり、社会に必要なことだったりする」と語った。ドラマを通じて、小池と北が犯罪被害者等施策担当の警察官僚と対談する企画も行われており、「例のポスター騒動とは異なり、非常に大きな意味の持つコラボ」と続けた。 現在、1クールにドラマが40本以上放送され、考察もの、不倫や復讐(ふくしゅう)などを描くものが注目されがちだ。その中で、真っすぐに丁寧に、大きな社会課題である被害者支援を描く「さよならノワール」。間違いなく現在の世の中に届けられるべき作品の一つといえる。