<特派員の目>裏社会の大物と竹棒の集団 よみがえる「98年」の記憶=小泉大士

インドネシアの首都ジャカルタで8月27日夜、汚職撲滅などを求める国会周辺のデモが騒乱に変わった。警察との衝突や放火が相次ぐ中、竹の棒などを手にした数百人の男たちが現れた。 後に、大衆団体「グリブ・ジャヤ」がメンバーを現場に出していたことを認めた。団体幹部は「群衆を追い払うためだった」と説明した。警察は協力を要請していなかったという。騒乱のさなか、現場にいた男性1人が暴行を受けて死亡した。 ◇重たい「パム・スワカルサ」 グリブは普通の市民団体とは違う。率いるヘルクレス氏は、中央ジャカルタのタナアバン地区を足場に、裏社会の実力者として名をはせた。恐喝や暴行事件などで逮捕、服役を重ねてきた。インドネシア占領下にあった東ティモール出身で、インドネシアとの併合派の民兵として国軍に協力し、東ティモールで陸軍の精鋭部隊を率いていた現大統領のプラボウォ氏と関係を築いた。 そんなグリブは今回、自らの行動を「パム・スワカルサ」と位置付けた。治安当局を支援し、公共施設などを守るためだったという。 この言葉は、1998年のスハルト元大統領退陣直後を知る人には重い。学生らは旧体制の影響が残る政治への抗議を続け、国軍は当時、国権の最高機関とされた国民協議会(MPR)特別会の警備を名目に、大衆団体などを大量動員した。 「パム・スワカルサ」と呼ばれた集団は竹の棒を手にし、民主化を求める学生らと衝突した。国軍が前面に出る代わりに、大衆団体を使ってデモを抑え込もうとしたことも強い批判を招いた。 スハルト政権後の民主化改革「レフォルマシ」は、政治や経済にまで大きな影響力を持っていた国軍を、国防という本来の役割へ戻そうとする試みでもあった。だが近年、国軍は給食など政府の事業に加え、国内治安にも関与を広げている。その傾向はプラボウォ氏が大統領に就いてから一段と目立つ。今回も国軍は警察を支援して警備に加わった。そこへ、グリブのメンバーもトラックで乗り付けた。 政権周辺がグリブを動かしたのか、それとも自ら治安維持を買って出たのか。いずれにせよ、国軍が警備に当たる街頭で、大衆団体が群衆を追い払おうとした。そこに、苦い記憶が重なる。【バンコク小泉大士】

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