李大統領の「司法リスク」が収まらない理由

秋夕(チュソク)連休直前の韓国国内の主なニュースは、最高裁判事の再提請(提請とは、推薦した人物の任命を最終決定権者に正式に請求すること)をめぐる李在明(イ・ジェミョン)大統領とチョ・ヒデ最高裁長官の対立、李在明大統領関連裁判に対する公訴取り消しの可能性に触れたイ・ジョンヒョン最高検察庁次長(検事総長職務代行)の発言でした。公訴取り消しに関する社説も掲載されました。 「検事総長職務代行の『公訴取り消し』に関する発言、極めて不適切だった」(朝鮮日報) 「検事総長職務代行、大統領の公訴取り消しへの強引な手が懸念される」(韓国日報) 保守与党「国民の力」は、最高裁と検察から端を発した「好機」を活かすため、総攻撃をかけています。同党のチャン・ドンヒョク代表は22日と23日、懸案に関する緊急記者会見を開きました。 「李在明大統領の裁判を再開することで、大韓民国の司法府が権力に屈しないこと、大韓民国憲法が生きていることを立証しなければならない」(22日) 「李在明裁判の再開は国民の命令だ。どんな手口を使っても決して阻止することはできない。国民が望む秋夕の贈り物は李在明の弾劾だ。国民がこの政権の独裁暴政に必ず終止符を打つだろう」 (23日) チョン・ジョムシク院内代表も22日、フェイスブックへの投稿と「李在明政権の失政に関する国民報告大会」で、司法府に李在明大統領の裁判を再開するよう求めました。 奇妙だと思いませんか。最高裁判事の再提請と任命をめぐる大統領と最高裁長官の対立は、李在明大統領のいわゆる司法リスクとは直接関係のない事案です。にもかかわらず、国民の力は司法府に対し、李在明大統領の裁判再開と弾劾という非現実的な要求を突き付けています。 公訴取り消しについても同様です。国民の力と一部の保守メディアは、「李在明大統領が在任中に公訴を取り消さないことを約束すべきだ」として、無理な要求をしています。 国民の力と保守勢力がこのような主張をする理由は、李在明大統領の支持率が急速に低下したためです。裁判の再開と公訴取り消し不可論は、政治的攻勢に過ぎません。一つずつ検証していきましょう。 第一に、裁判の再開です。 李在明大統領は当選するまで、計5つの裁判を受けていました。昨年6月3日の大統領選挙で李在明候補が当選したことを受け、5つの裁判所はそれぞれの判断に基づき、すべて裁判を中止しました。憲法第84条の不訴追特権条項がその根拠でした。 不訴追特権は、大統領個人に与えられる特権ではなく、国家元首であり行政府の首班である「大統領」という機関が、任期中に国政を安定的に運営できるよう保障する仕組みです。1948年の制憲憲法から存在しています。他国の立法例も数多くあります。大統領自身が自ら放棄しようとしても放棄できるものではありません。国会議員が不逮捕特権や免責特権を自ら放棄したとしても、放棄できないのと同じことです。裁判再開の要求は、全く理にかなわない荒唐無稽な主張です。 国民の力による李在明大統領の裁判再開の要求は、昨年の大統領選挙前に国民の力が行った、李在明候補の選挙法違反事件に対する最高裁の「破棄差し戻し」要求の延長線上にあります。当時、キム・ギヒョン、ナ・ギョンウォン、チュ・ジヌなど、主にソウル大学出身の元判事・検事の議員たちがそのような主張を展開しました。現在、国民の力のチャン・ドンヒョク代表、チョン・ジョムシク院内代表もソウル大学出身の元判事・検事です。 法曹関係者は基本的に既得権勢力に近い存在です。特にソウル大学出身の元判事・検事の中には、歪んだエリート意識を持っている者もいます。「大韓民国の主権は国民にある」という憲法の価値よりも、「法治(法による支配)」が優位にあると勘違いする傾向があります。 彼らの視点から見れば、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)当時大統領を中心とした検察」による野党代表の抹殺の試みは法治そのものです。様々な犯罪容疑で起訴され、裁判を受けている李在明という政治家は、絶対に大統領になってはならない存在です。大統領になったとしても、一日も早く引きずり下ろさなければなりません。これが、破棄差し戻しや裁判再開の要求の感情的な背景です。 李在明大統領の任期中に裁判が再開される可能性はあるのでしょうか。もし、ある裁判部が突然、李在明大統領の裁判を再開したらどうなるでしょうか。李在明大統領は憲法裁判所に権限争議の審判を請求するでしょう。あるいは、国会が大統領の裁判を中断するよう法律を改正することもできます。いずれにせよ、李在明大統領の裁判が再開される可能性はないのです。 第二に、公訴取り消しです。 李在明大統領は9月18日の記者会見で、「既存の起訴事件に対する特別検察官(特検)の移送または処分に関する条項は削除し、真相究明のみに集中してほしい」と要請しました。李在明大統領の発言は、公訴取り消しに関して李在明大統領自身ができる「最大限の措置」です。特検の最終任命権者が大統領であるため、特検が公訴取り消しの権限を持つことが不当だと考えるなら、特検に公訴取り消しの権限を与えないようにしようという内容です。 にもかかわらず、国民の力や一部の保守メディアは、李在明大統領に対し、公訴取り消しの放棄を宣言するよう求めています。このような要求は、刑事訴訟法に規定された公訴取り消し制度そのものを形骸化させようとする違法な扇動です。 公訴取り消しは刑事訴訟法第255条に規定されています。ですが、「公訴は一審の判決前まで取り消すことができる」という条項があるだけです。どのような場合に公訴を取り消すかに関する内容は定められていません。なぜでしょうか。 公訴取り消しは、起訴便宜主義の法理の延長線上にあるものです。起訴便宜主義とは、起訴の可否を検察官の裁量に委ねる原則です。起訴の可否が検察官の裁量であるのと同様に、公訴取り消しも検察官に委ねられているとみなすべきです。ただし、公訴取り消しの前例はほとんどありません。検察が公訴提起を翻すことになるからです。 李在明大統領の捜査と起訴において、尹錫悦検察がどのような違法行為を犯したのかは、これから明らかにしなければなりません。違法な捜査と起訴が明らかになれば、公訴の取り消しは刑事訴訟法上、当然の手続きです。違法な捜査と起訴がなかったのであれば、公訴の取り消しもありません。 検事総長を代行することになるイ・ジョンヒョン最高検察庁次長が、「真相調査団が調査を行っているため、その結果を注視する必要があるだろう」と述べました。極めて当然の発言です。イ次長が「李在明大統領の公訴を取り消さない」と言えるでしょうか。ありえません。それは刑事訴訟法を無視する違法な宣言に他なりません。 李在明大統領の公訴取り消しの可否は、今後行われる捏造起訴特別検察の捜査と、法務部未来委員会の真相調査団の調査結果に基づき、公訴庁の検事たちが決めるべきことです。公訴を取り消すべきか、維持すべきかをめぐり論争を繰り広げるような問題ではありません。 退任後に裁判を受けると約束せよという要求も筋が通っていません。検事が公訴を取り消せば、それで終わりではありません。裁判所が公訴棄却の決定を下して初めて終わるのです。李在明大統領の任期中に、いくつの事件について公訴取り消しが行われたとしても、裁判所による公訴棄却の決定は、李在明大統領の退任後に行われるしかありません。どうせ退任後に裁判を受けることになっているのです。 第三に、最高裁判事の再提請をめぐる物議です。 今回の事件は、「最高裁判事は最高裁長官の提請により、国会の同意を得て大統領が任命する」という憲法条項のために発生しました。憲法改正を行えば、これを修正しなければなりません。 これまで、歴代の大統領と最高裁長官たちが最高裁判事の人事を事前に協議してきたのには、理由がありました。李在明大統領とチョ・ヒデ最高裁長官、どちらかが正しく、どちらかが間違っているとは言い難いでしょう。 筆者は、チョ・ヒデ最高裁長官が最高裁判事候補推薦委員会を再構成し、新たな候補者を提請することが現実的だと考えました。ところが、チョ・ヒデ最高裁長官は再提請を拒否しました。最高裁長官であるならば、憲法と法律を「本来の目的に合わせて」解釈すべきです。「憲法上の根拠と事由が見当たらない」という主張は、木を見て森を見ない近視眼的な態度です。 チョ・ヒデ最高裁長官の再提請拒否は、政治的な野心によるものだという分析もあります。かつて「人に忠誠を誓わない」と言って国民を欺いた尹錫悦検事を思い浮かべる人たちもいます。ですが、筆者はそうは思いません。チョ・ヒデ最高裁長官に対する法曹界の人々の評判は非常に良いものでした。2023年12月の国会における最高裁長官任命同意案の採決で、チョ・ヒデ候補者は(出席議員292人中)264票を獲得しました。 だからといって、彼が立派な最高裁長官だという意味ではありません。筆者はチョ・ヒデ最高裁長官を「頑固者」とみなしています。視野が狭く、原則ばかりを貫こうとするため、かえって危険な存在になり得ます。 最高裁判事の事態をどのように解決すればよいでしょうか。チョ・ヒデ最高裁長官の任期は来年6月までです。来年6月以降に、李在明大統領と新しい最高裁長官との事前協議を経て、最高裁判事を提請し任命するしかありません。残念ですが、仕方ありません。 李在明大統領が、将来自分に有利な判決を下す裁判官たちを最高裁判事に据えようとしているという国民の力や保守勢力の主張は間違っています。裁判官は、自分を任命した大統領に有利な判決を下すような人たちではありません。尹錫悦大統領の憲法裁判所における弾劾審判では、尹錫悦大統領が任命した憲法裁判官たちも全員が弾劾に賛成しました。 まとめます。李在明大統領の司法リスクがなかなか収まらないことに関しては、李在明大統領と民主党の責任も非常に大きいと思います。李在明大統領はこれまで、公訴取り消しにこだわりすぎました。民主党は「公訴取消し議員の会」を結成し、物議を醸しました。チョ・ヒデ最高裁長官の辞任と弾劾を主張し、今も主張し続けています。弾劾訴追すらできないのに、政治攻勢ばかり繰り広げているせいで、嘲笑の的となっています。 自粛すべきです。国民の力や最高裁長官、検察と争おうとしてはいけません。国民を信じ、国民を見据えて政治を行うべきです。それが与党の務めです。皆さんはどうお考えですか。 ソン・ハニョン政治部先任記者 (お問い合わせ [email protected] )

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