44万フォロワーの彼女は"国税局の餌食"になった…元税務署長が明かす「お金持ちの脱税」を見抜く下調べの中身

国税局の職員たちは、どうやってお金持ちの脱税を見抜いているのか。税務行政に37年間携わり、税務署長を務めた元東京国税局職員の横井克宏さんが、自身の調査経験をもとに、本人への接触前から進める下調べの実態を明かす――。(構成=フリーライター・小林義崇)■判決を聞いて最初に思ったのは「当然だろうな」 2026年7月15日、東京地裁は、インスタグラムのフォロワー数44万人を誇るインフルエンサー「宮崎麗果」こと黒木麗香被告(38)に対し、法人税法違反などの罪で懲役2年6月、執行猶予4年の判決を言い渡しました。裁判官は「強固な犯意に基づき、一定の計画性も備えている」と述べています。 このニュースを聞いて、私が最初に思ったのは「当然だろうな」ということでした。 驚きは、まったくありません。彼女のような存在は、国税にとって「格好の餌食」だからです。目をつけられていたのは間違いありません。私の感覚で言えば、事件が表に出るずっと前から、当局の中では「企画書」の段階まで話が落とし込まれていたはずです。 なぜそう言えるのか。私が、その企画書を書く側にいた人間だからです。 まず、簡単に自己紹介をさせてください。 私は1987年に東京国税局に採用され、以来37年間、税務行政に携わってきました。キャリアの大半、25年以上を国税局の調査部で過ごしています。調査部というのは、資本金1億円以上の大法人を担当する部署で、私は調査の実務指導専門官という、若い調査官に「調査とはこうやるんだ」と手本を見せる、いわば鬼軍曹のような役目も務めました。 その後、「電子商取引担当統括実査官」という職に就きました。マスコミが「サイバー税務署長」と呼んでいたポストです。インフルエンサーや情報商材業者、暗号資産(仮想通貨)といった、ネット上で稼ぐ人たちの調査を専門に率いる立場でした。国際課税リスク担当の初代主任国際専門官も務め、最後は税務署長として退官しています。 東京国税局管内には約1万5500人の職員がいますが、税務署長になれるのはごく一握りです。その中でも私は、部長や次長といった「机の上の人」ではなく、質問検査権を持って現場に踏み込み続けていました。黒木被告のような人物をどうやって見つけ、どうやって追い詰めるか。その段取りを実際に組み立てていたのです。■「架空の業務委託費」という古典的な手口 黒木被告の話に戻しましょう。彼女の本業は、東京・渋谷区の広告会社「Solarie(ソラリエ)」の社長です。広告代理店から依頼を受け、インスタグラムで化粧品などを紹介すると、広告料が同社に入る仕組みでした。 起訴状によれば、2021年1月期、2023年1月期、2024年1月期の計3年間に、架空の業務委託費を計上する手口で約4億9600万円の所得を隠し、法人税など約1億2600万円を脱税。さらに消費税など約3100万円を脱税したとされています。脱税額の合計は約1億5700万円です。 関係者によると、取引先に「SNSの運用業務を行った」とする虚偽の領収書を作成させていたといいます。東京地検特捜部は、領収書の作成に関わった会社役員の男性2人も、脱税ほう助の罪で在宅起訴しました。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加