『LOST10』は横浜流星の新たな代表作となる予感 『正体』『国宝』に通じる“不安”と“渇望”

10月16日よりTBS系で放送がスタートするドラマ『LOST10』に期待せずにはいられない。数々の傑作を世に放ってきた塚原あゆ子監督と新井順子プロデューサーがタッグを組み、その2人とともに名作『Nのために』(2014年/TBS系)を手がけた脚本家の奥寺佐渡子がオリジナル脚本で作り上げるヒューマンサスペンス。どこにも隙のない制作陣が集結する本作には豪華なキャストも勢揃いしているが、そのなかでも一際注目を集めるのが、本作で主演を飾る横浜流星だ。 2025年に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』以来の民放連続ドラマ出演。これまで数々の映画で主演を務めてきた横浜が、満を持して民放連続ドラマに帰ってくるとあって、本作への注目度も格段に上がっているように感じる。 本作は壮大な自然が広がる北海道を舞台に、登山ツアー中に起こった遭難事故の真相を追うなかで、幾重にも連なる喪失と食い違う関係者の証言がいくつもの謎を生み出していく。横浜が演じる小駒は北海道の刑事であり、嘘と真実の境界線があいまいになった事件の謎を追う役割を担う。初共演となる小栗旬とのコンビも新鮮で、ストーリーの行く末も含めて見どころが多い。 彼が演じるキャラクターは常に生々しいほどに見えない何かを追い求め、同時にそれを失ってしまうのではないかという底知れぬ不安が付きまとっている気がする。だからこそ、繊細に揺れ動く心情を芝居で表現する横浜の魅力が最大限に発揮されるであろう役柄を、連続ドラマという枠組みで演じる姿を待ち望んでいた。 第48回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた映画『正体』(2024年)では、一家惨殺事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた死刑囚・鏑木慶一が姿と名前を変えて逃亡する切実な姿が映し出された。さまざまな登場人物たちとともに時間を過ごすなかで、彼の人間性が少しずつ浮き彫りになり、観ている人は真実のありかを別の場所に探し求める。慶一の全身から滲み出る不安は、逃亡の渦中においても消えることはなかった。劇中では見た目も雰囲気もまったく異なる人物に扮した横浜だったが、誰にも理解されない真実を胸に沈め、それでも人を信じる強い意思が宿った瞳には、陰りのなかにわずかな希望を燻らせていたのが印象深い。 その瞳が爛々と輝きを見せたのが『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』だ。果敢におもしろきことを突き詰めながら、時代の寵児へと成り上がっていく蔦屋重三郎こと“蔦重”。周囲の人々はその奔放さに振り回されながらも、自身が描く夢物語に純粋なまでに突き進んでいく彼の背中を自然と目で追ってしまう。あっけらかんとした言動でその場を盛り上げては、江戸の“粋”を体現する蔦重のやることなすことに夢中にさせられた一年は、横浜の快活な芝居なくしては存在しえなかっただろう。 そして、日本映画史における新たな金字塔を打ち立てた『国宝』(2025年)では、主演の吉沢亮としのぎを削る生涯のライバル・俊介を演じた。上方歌舞伎の御曹司として生まれ、父親から厳しく指導を受けながらも、兄弟同然のように育った喜久雄(吉沢亮)の才能を前に、歌舞伎の世界から逃げ出してしまう。それでも地獄の果てから舞い戻り、自身の血筋を受け入れようとする俊介の並々ならぬ覚悟を、横浜は偽ることのできない板の上で痛みに悶えながら表現する。本作に出演するにあたり、歌舞伎の稽古は1年半にも及んだという。同年に公開された『片思い世界』(2025年)でもピアノに初挑戦し、約9カ月間にわたって練習を重ねた横浜。彼のたゆまぬ努力が結晶となって、作品を煌びやかに見せると同時に、礎となる土台をより強固なものにしている。 これまでに出演した作品で幾度も驚嘆させられた横浜のストイックさは、10月9日に公開された映画『汝、星のごとく』にも受け継がれていた。同じく凪良ゆうの小説が原作となった映画『流浪の月』(2022年)では募る思いがすれ違い続け、どうしようもなく傷つけてしまう間柄だった広瀬すずとW主演を務めるとあって、キャスト発表時に大きな話題となったのも記憶に新しい。 横浜が演じた青埜櫂は母親の恋愛に振り回されて、見知らぬ瀬戸内海の島にやってきた高校生。そこで彼は、自身と同様に家庭の事情によって孤独を感じていた同い年の井上暁海(広瀬すず)と出会う。閉ざされた島の環境から、それぞれ漫画と刺繍で抜け出そうとする2人の逡巡と渇望、15年にもわたる愛の物語が描かれるなかで、横浜は櫂というキャラクターと全身全霊で向き合い続けた。17歳の若き青年は成長していく過程でさまざまな困難に直面し、人生を切り拓くためにすべてを懸けて臨んだ漫画でさえも、思わぬ壁が目の前に立ちはだかる。一瞬の表情に込められた多様な感情。一心不乱に創作に打ち込むまっすぐさと信念。絶望で心身が擦り減っていくなかでも、決して消えることのない光を追い求める姿。それぞれの年齢を地続きに演じた横浜の研ぎ澄まされた芝居には、櫂という人間が生きた人生に織り込まれた喜怒哀楽が瞬くように光っていた。 『LOST10』は枝分かれしたあいまいな真実と不確かな情報が世の中を飛び交う現代を象徴するような作品となる予感がする。そんな時代に起きた不可解な事件に巻き込まれる主人公を、横浜がどのように演じるのか。これまでの出演作品で彼が見せてきた研ぎ澄まされた芝居と、生々しい感情が溢れ出す瞬間を心して見届けたい。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加