韓国史上初めて、拘束された現職大統領となった尹錫悦氏。「要塞(ようさい)化」した公邸に籠城し、徹底抗戦を図ったが、捜査員が迫ると一転、「出頭」を表明した。追い詰められる中、流血の事態も懸念された衝突を回避し、自らに批判的な世論の高まりを避ける狙いがあったとみられる。捜査当局は20日間拘束が可能な逮捕状を請求する意向で、裁判所が発付するかが次の焦点となる。 ◇200ページ 「この国では法が全て崩れた」。尹氏は拘束に際し談話を出し、令状執行を非難。「無効な令状による手続きを強圧的に進めるのを見て、本当に嘆かわしい」とも語り、自らの正当性を国民に訴えた。 警護車両に囲まれ、ソウル南郊の高官犯罪捜査庁(高捜庁)の庁舎に到着した尹氏はスーツ姿。拘束という「不名誉」な状況下でも、自らの威厳を守りたいとの思いが透ける。 既に起訴された金龍顕前国防相らの捜査で、尹氏が国会による非常戒厳解除決議を防ぐよう指示したという証言が相次いでいる。捜査当局は、200ページに及ぶ質問用紙を準備し、こうした点を追及する方針だが、尹氏は聴取に黙秘。捜査を受け入れない構えだ。 ◇切り崩された防衛線 3日に1度目の令状執行に失敗し、野党や世論からの厳しい批判にさらされた高捜庁は2度目が「最後の執行」(呉東運長官)との強い意志で臨んだ。警護員の数に圧倒され約5時間半で撤退した反省を踏まえ、警察から前回の7倍の人員支援を得た。 令状阻止の姿勢を見せていた警護庁側の防衛線も切り崩されていた。内部では、同庁を指揮していた「強硬派」のキム・ソンフン次長への批判が表面化。今回は、捜査員らがはしごでバスを乗り越えたり鉄条網を切断したりしても、警護員らは制止せずに黙認。休暇を取得するなどして阻止に加わらなかった人もいたという。 捜査当局は、警護庁に事前に警告し、キム次長の拘束令状も取るなど圧力をかけた。令状執行を阻止すれば自らが罪に問われるという警護員らの不安も作用した。 ◇保守結束 令状執行を拒否する尹氏に対する風当たりが強まっていた一方、大統領職を代行した韓悳洙首相まで弾劾訴追した野党の強引な国会運営への批判も少なくなかった。世論調査では与党「国民の力」支持率が戒厳宣言以前の水準に回復し、尹氏弾劾に反対する回答も増えている。 「法が崩れた暗い時代だが、この国の未来には希望がある」。公邸前に集まる尹氏の支持者には若者の姿も増え、尹氏も談話で「特に青年たちが自由民主主義の大切さを再認識するようになっている」と強調。保守層の結束へ期待を示した。 尹氏側は高捜庁がソウル西部地裁から拘束令状を取得したのは「違法だ」と主張してきた。尹氏側弁護士は15日、「逮捕状請求では、高捜庁を管轄するソウル中央地裁に請求するなど正当な法手続きを守るべきだ」とけん制した。 逮捕状請求に際し、捜査当局は取り調べ継続の必要性だけでなく、証拠隠滅や逃亡の恐れも証明する必要がある。裁判所の判断基準は拘束令状より厳格で、棄却するケースも少なくない。尹氏側弁護士は「大統領に逃亡の懸念はない」と指摘。もし逮捕状が認められなければ、尹氏と捜査当局の立場が一気に逆転する可能性がある。