2019年11月、ALS患者の林優里さん(当時51)が亡くなり、二人の医師が嘱託殺人の容疑で逮捕された。SNSで「死にたい」という叫びに呼応した医師は「殺人鬼」だったのか。この事件を追った映画が「京都ALS患者嘱託殺人事件」だ。AERA 2026年11月2日号より。* * * 本作はALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が目の動きでパソコンに文字を打ち込む「アイトラッカー」を使用している場面からはじまる。ALSは脳から筋肉へ命令を伝える神経が障害され、全身の筋力が徐々に失われる難病だ。一文字が時間をかけて表示される様が想像しがたい患者の状況を微かに観客に体感させる。二村真弘監督(48)は話す。「ALSの患者さんがどういう生活をされているのか、僕自身もわからなかった。林優里さんとSNSを通じて交流のあった方に撮影をさせていただき、彼女を理解する手がかりになればと思いました」■静かな死迎えられない 前作「マミー」で和歌山毒物カレー事件を追った二村監督が「京都ALS患者嘱託殺人事件」を調べはじめたのは2024年の秋。生前に林さんが綴った1200件のツイートを読み、逮捕された医師のひとり、大久保愉一被告の裁判を傍聴した。大きな違和感を二つ持ったという。「まず報道でも裁判でも林さんが『被害者』として語られていたことです。彼女はツイッターで夜な夜な自分の唾液で溺れかける苦しさを訴えていました。しかし苦しみから解放される手段がない。ALSなど神経難病患者はがん患者のような終末期の判断が難しく、選択肢が十分に整っていないため苦しみを抑えながら静かな死を迎えることができない現実があります。そんな現行制度の課題を彼女は発信していたのだと気づいた」